セビーリャには夕方に着いた。タクシーに予約したホテルの名前を示すと、旧市街のホテルに連れていかれた。ここだ。
 セビーリャの観光名所は旧市街に集中している。だからホテルから歩いて廻ることも可能だ。旅行会社に「街の中心地のホテルを」と要求した甲斐があった。

 夕食はホテルの美人フロント嬢に教えてもらったレストランに行くことにしたが、迷子になって色々な人に質問する羽目になる。そもそも英語の聞き取り能力が不足している上、分かった気になる私の性格が問題なわけだ。まあ夕闇が美しい旧市街の散策ができたので良しとしよう。
 ちょうど夕食開始時間の8時になった。教えてもらったレストランで食べた魚のグリルとハモンセラーノ(生ハム)は値段は張るが、その分美味だった。
 
 余談ながら、ホテルに帰ってテレビをつけると何と「こち亀」(!)をやっていた。両さんの声優は日本と同じ声質で違和感は無かった。エピソードは「剣道一直線」というもので、スペイン語が分からなくとも十分楽しめた。日本アニメはスペイン人の心を捉えているのだろう(笑)。

 さて翌朝はまず旧市街を散策して写真を撮った。写真であるようにセビーリャは「グアダルキビル川」という川の周りに街ができており、その辺りの風景は実に美しい。穏やかな流れの川を見ると、ボートをこいでいる人もいる。
 散策の後、最初の目的地は闘牛場だ。

 闘牛はスペインの国技とされるが、セビーリャをはじめとするアンダルシア地方はその本場とされる。残念ながらシーズンを外しているので(開幕は4月)、観戦できない。せめて闘牛場ツアーで満足しようと言うわけだ。
 着いてみるとちょうど開場時間になった。日本人の客は私一人で、あと英語とスペイン語を話すグループばかりである。ガイドの小母さんが

 「私の英語、理解できるかしら?」

と聞いてきたので、「多分、半分ぐらい」と答えた。しかしその英語は早口なので、聞き取れたのは3割ぐらいだろうか。ところで、スペイン語のガイドの説明では「トロ)」と「マタドール闘牛士)」の単語だけは知っていたので聞き取れた。何の自慢にもならんが・・。

 とにかくツアーとは言え、牛と闘牛士が対戦する「アレーナ」を目の当たりすると、素直に感動した。セビーリャの闘牛場は、よくガイドブックで紹介されるマドリードのものより小ぶりである。人口70万なので当然のことだろうが、かえって臨場感が感じられるのだろう。客席とアレーナが近いという利点がある。
 アレーナを見た後は屋内に入る。そこは「闘牛博物館」になっており、闘牛の歴史や道具、衣装など展示していて一見の価値はある。

 ここから先の話は、闘牛博物館の見聞と帰国後に本で得た知識である。

 闘牛は、貴族が野牛を狩ることが起源らしい。狩の際には馬に乗り、槍を使うということで今の闘牛とは大分違う。現在のような形となり、競技場で見世物となったのは18世紀のことらしい。これは古代ローマの「剣闘士競技」の復活という意味合いがあったようだ。
 発祥の地はアンダルシア地方の
ロンダであり、この地方で中心的に行われていたが、政府の後押しで全土に広がったという。さらに20世紀後半のフランコ独裁政権の時代に「大衆操作」の道具として、闘牛観戦が過度に奨励された。その反動か、1970年代の自由化以降、人気が急落したらしい。しかしその後やや持ち直して、女性闘牛士も登場。さらに近年は日本人の闘牛士もいるという!

 アンダルシア地方放牧場が多いだけに、現在でも闘牛の本場と見做されている。著名な闘牛士もアンダルシア出身者が多いという。
 それにしても、闘牛といいフラメンコといいスペインのシンボルが共にアンダルシアが本場ということで、この地方は名誉な地位を国家から与えられたものだと思う。

 観戦できなかったのは残念だが、闘牛場の空気に触れられて、歴史に思いを馳せられたのは収穫だった。
 ツアー終了は10時半。アンダルシアの旅はまだ序の口である。

セビーリャ@

マタドール(闘牛士)の劇場

セビーリャ中心部を流れるグアダルキビル川イサベル2世橋
セビーリャのマエストランサ闘牛場。スペインでも有数の規模を誇る名門の闘牛場だ。
マエストランサ闘牛場の「アレーナ」。ここで牛と人間の生死をかけた戦いが行われる。
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闘牛場内部の回廊。 この辺りにある闘牛博物館は展示が充実して、一見の価値がある。