スペインから去るのは朝7時だった。マドリードの空港から出発し、ドイツのフランクフルトを経由、そして日本に帰るという旅程である。
 
 というわけで、早朝5時半に起こされたのだ。予約していたホテルから空港まで送ってくれるタクシーの運転手がフロントから私の部屋に電話してきた。あわてて荷物を持ってフロントに行くと、運転手は見事なばかりにミスター肥満体氏」といった体型だが、性格は気難しそうな感じだった。
 「少し待たせてご機嫌ななめかも」と不安はあったが、とにかく空港までお任せすることにした。案の定、何も会話せず、車内は沈黙が支配する(そもそも言葉が通じないし)。そして30分ほどして空港に着いたら、荷物を出すのを手伝ってくれた。私が

ムーチョス・グラシアスThank you very much)」

と言うと、「You’re welcome」とスペイン語訛りの英語で応じてくれた。根はいい性格のようで安心した。何はともあれ、これが最後のスペイン語会話だ。

 空港はまだ夜明け前だった。手続きを済まして、朝食を摂ることにした。空港内のバイキング形式の食堂で並んでいると、アメリカ人らしき二人の若者がスペイン旅行のことを何かしら話していた。私もそこで帰るまでのドタバタを思い出していた。

リコンフォームの手続きをしたのはなんと前日だった。

 通常は3日前までにするものだが、旅行の楽しさに気を取られて、すっかり忘れていたのである。
 前日に思い出して、ヒヤヒヤしながら「ルフトハンザ航空」に電話する羽目になる。「ひょっとして帰れないかも」など最悪の事態を想定していたが、ありがたいことに空き席はあった。助かった〜。全く運がいい・・。

 余談ながら、このやり取りではかなりしどろもどろの英語を使って、先方に何度か聞き返された。聞き取りが不十分な上、焦りまくっていたわけで(笑)。


 朝食を終えると、7時近くとなる。そこで見晴らしのいい所で「日の出」を見ることにした。
 ついに日が昇ってきた! スペインで見る最初で最後の日の出は、私の気分も絡んでいるのだろうが、非常に美しく感じられた。旅行の締めくくりに、このようなものを見られたので、すがすがしい気分になる。

 その後は家族や友人への土産を買うため、免税品店を渉猟する。スペインはカバンやコートなど革製品が名物だそうだが、予算が足りないので、もっぱらお菓子類を買った。羊が多い国だけに、羊乳チーズのスナックがあるのはさすがだ。ウォーキングにはまっている父への土産には帽子を買った。レアル・マドリードの(笑)。

 ここでトレド・ツアーで知り合った神戸の老夫婦と再会した。3回目の邂逅であり、これでお別れとあって、色々話をすることがあった。
 彼等はポルトガルで友人に招かれていたのだという。そしてその友人の自宅で過ごした後、西の果てであるロカ岬リスボンを回って、スペインに来た。こうして私の会ったのだから、「奇縁」というものだ。
 もともとは夫妻とも神戸で放送局に勤めていたという。仕事の話や彼等の娘さんの話など興味深かった。こういう人と会うのも旅行の「醍醐味」だろう。

 彼等の話から、ポルトガルにも興味が湧いてきた。また同じ「ラテン系」ということで、フランスやイタリアにも興味が広がった

 もちろん、スペインの行っていない地方にも旅したいという願望はある。特に北スペインは、今回旅行した中南部とは全く違う風土と文化を持つ
 独自の民族が住み、“美食の地”としても名高い「バスク地方」や、「サンティアゴへの巡礼道」など日本でも関心が高まってきた。
 また地中海に面し、「パエリャ発祥の地」と言われるバレンシア地方や、「アルハンブラ宮殿」を持つグラナダなど興味は尽きない。

 しかしとりあえず、スペイン旅行は終わりである。夢から現実に引き戻された感覚になったのは、フランクフルトに着いてからである。
 スペインでは25度以上の気温だったが、ドイツではいきなり10度少々(!)。あまりの寒暖差に震え上がったのだった。
 そして旅行を共にした老夫婦と別れ、日本に着いたら、ますますその感覚は深まった。3月中旬でまだ肌寒い。それ以上に風景が違う。だだっ広いスペインから、山々が盆地と田畑を囲む日本へ。あまりの風景に違いに苦笑した。

スペイン酔いは終わらない

夕暮れのアトーチャ駅(マドリード)。 スペインの旅も終わりに近づく・・・。
マドリードの空港の夜明け。 明日のスペインの進む道は・・。

こうして夢のような時間は終わったが、私は確かにスペインを旅したのである。それは私の心に新たな広がりをもたらしてくれた。
 独自の個性を持つ地方同士のぶつかり合い、それがもたらす文化の魅力、伝統を保ちながら、未来に向かっていく姿など、知識として持っていたが、それを体感できたのは大きかった
 この文章でも読者の皆さんにそれをお伝えすることを目的としてきた。

 知見の広がりもそうだが、「スペイン酔い」というべき症状はまだ続いている。
 それが高じて、テレビのスペイン語会話を毎週見る習慣がついた(←ナンテ間ガ悪インデショ)。冗談みたいな話だが、旅行中は日本食(特にご飯と味噌汁)が恋しくてたまらなかったのに、今やスペイン料理店の看板を見ると懐かしくもなる。

 やや話がまとまらなくなってきたが、これを終わるに当っての結論は、以下の通り。


エスパーニャ・エス・ファンタスティコ!(スペインはファンタスティックだ!)
バモサ・イル・ア・エスパーニャ!(行こう、スペインへ!!)

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終幕