飯田駅前の街並み。南信州の中心都市として賑わっている。旧城下町らしく碁盤の区画で街歩きには便利。晴れた日には南アルプスが望める。 |
「~な」(~だよ)◎ 〔若者)少、 「~だわ」とも、〕
・ちょっと様子見に行ったんな。そしたらさ・・
・その日はちょっと忙しいんな。ゴメン。
・仕事があったもんで、行けんかったんな
飯田などでは「~な」が断定の終助詞の機能を果たしている。「自分の気持ち、主張を一方的に言う」というニュアンスがある。これは長野県の他地域、周辺各県には見当たらず、極めて独特な特徴である。飯田あたりの方言は「柔らかい、やさしい」と他地域の人から言われるが、その重要な要素がこれである。間投詞でも(共通語(~ねえ)の意)「それでなあ」「美味しいなあ」のように言うので、この印象を強める。
ただし20代以下の若者では「~だわ」(三河からの流入か?)、さらに共通語の「~だよ」に変わる傾向があるという
「~(だ)に」(~(だ)よ)◎
・そんなことやるで、ダメなんだに。
・今日の練習場所は体育館だに。
・そうだに。すごく面白いに。
・今日は農協の販売所でお刺身売っとらんかったに。
・それだったら、あそこにあるに。
「~だに」は上と同じ(~だよ)の意だが、「相手に言い聞かせる」というニュアンスがある。これは静岡県の遠州弁、さらに愛知県の東三河弁と共通のものである。「柔らかい、やさしい」の重要な要素である。
ただしこれも若者では「~だよ」に置き換わるきらいがある。動詞or形容詞+「~に」は若者でもかなり使われるようで、下伊那弁の特徴を保っていると言えよう。
「~(し)とる」(~してる:進行形)◎
・明日、テストあるって知っとる?
・じゃあ、先に行っとるに。
・すごい疲れとったんな。
・別に大したこと言っとらんかったに。
動詞の進行形は西日本式である。このため信州北中部の人は「飯田あたりのことばは関西弁みたい」と思う。「居(い)る」も下伊那弁では西日本式に「おる」である。三河経由での京都文化の流入を感じさせる。これは若者でもかなり使われる。
しかし「おる、~(し)とる」は下伊那地方が分布の北限で、伊那市などでは東日本式に「いる、~(し)てる」である。長野県の方言区画で「南信方言」の重要な要素となっている。
なお伝統的には、進行形「~よる」/完了形「~とる」と区別したようだが、若者では「~とる」に統合されている。
「~ん」(~ない:否定形)
・連絡しても全然来んに。
・住所知らんかったで、調べたんな。
・今やらんくてどうするの!
・そういう言い方はせん/しん方がいいよ。
・掃除せんかった/しんかったら、すごい汚れとるわ。
動詞の否定形も西日本式である。これは上伊那地方まで分布している。若者もかなり使う。
(しない)は中年以上が「せん」、若者で「しん」になる傾向がある(「しない」もまま使うようだが)。在来方言と共通語の混合か、愛知・静岡からの影響か二つの理由が考えられる。
なお、過去形の伝統的な形は「~なんだ」だったが (知らなんだ等)、これも共通語「~なかった」との混合か、東海地方(愛知・静岡)からの影響かによって「~んかった」と変わっている。
「~だら、ら」(~だよね、でしょう:推量、同意確認)◎
・来週、発表だら。ちゃんと調べんといかんに。
・その服、昨日買ったばっかだら。すごいカワイイに。
・あそこに見えるじゃん?そこまで行ったら分かるだら。
・そんなこと言っちゃいかんだら
・明日、雨降るって言っとったら。
・あるわけないら、そんなこと。
・そういうことって珍しいら
・あの人がテニスするってありえんらー。
南信州方言の最大の特徴。「中信方言」の伊那市まで分布する、伊那地方の代表的方言である。
かつて信州の大部分では「~ずら」を使っていたが、多くは共通語の「~だろう」に変わっている。しかし南信州では「~だら」に変化することで、共通語≒東京語と異なる特徴を保っている。もちろん、若者でも使っている。
『長野県史 方言編』に収録されている地元住民の証言によれば、「若い人が使う」というものがあった。おそらく1960~70年代にかけて、ずら→だら と変化していったのだろう。変化の要因については、「愛知・静岡方面からの流入」とあった。まさに三遠南信交流の反映であろう。
「~だら」「~ら」の接続は東三河弁・遠州弁のところと同様に、
・体言(名詞など)、および用言(動詞、形容詞)+だら (雨だら、降るだら、美味しいだら等)
・用言のみ+ら (降るら、美味しいら等)
となる。「用言+だら」は「~ら」の強調(「~なんでしょう!」のように)というニュアンスがある。ただ先行研究では諸説あり、地域差も考えねばならない。
「~ら」については東京語「~よね」に相当し、若者の間でもよく使われる。
同意確認にについては「~じゃん」もある。今では共通語だが、下伊那地方では共通語化する前に大正末あたりから使われていたという。ただ「~ら」は相手を意識しているのに対し、「~じゃん」は自己主張の度合いが強いという感じがする。
なお、若者の間では「~だら、ら」は文末のみに使い、文中の推量は「~だろう」となる(「雨だろうと。これは三河・遠州と同様である。
伊那谷道中。江戸~昭和初期までの伊那谷の街並みを再現し、伝統産業の体験や郷土料理を楽しめる。ケフィアランドの一施設であり、温泉施設も隣接する。 |
(4)
飯田城跡の城門。東大のように「赤門」である。城のほとんどは明治期に破却され、これが唯一の遺構として、城下町の姿を伝えている。 |
~南信州方言の言い回し・単語集~
千畳敷カール(駒ケ根市)。中央アルプスの一部をなす氷河地形。四季を通して登山客が訪れる。ロープウェイも設置されている。 |
飯田市方言を中心に南信州の方言(下伊那弁)を紹介する。伊那市、駒ケ根など上伊那の方言との共通点や違いについても適宜触れる。
飯田は「人形劇の町」として知られ、街の中心に定時に人形劇が行われる時計台がある。 下は時計台近くの街並み。 |