「~もんで(~から:理由)

明日持ってくる、楽しみにしとってね。
・後は俺がやっとく、帰っていいよ。
・もう時間だで、やめときない。
・すごい疲れたもんで、眠いわ。

理由の接続詞は「~」もしくは「もんで」になる。「もんで、「~よりやや念押し的な語感である。
 分布範囲は長野県の大部分であるが、愛知、静岡など東海地方で広く共通する接続詞である。ただ若者では「~からも増えている感じがある。



「~(
ない」(~しなさい:命令)

・空いとるで、座りない
・それはそこに置いときないよ
・すごく美味しいに。あんたも食べないよ

柔らかい命令形は「~(ない」となる。これは遠州弁と共通する。下伊那弁は三河弁とよく似ているが、命令形については三河弁のように「~(」とはならない。その語源は動詞の敬語表現が「~(なるであり、その命令形「~(なれから来ていると思われる。
 類似の表現では「お~て」というのもある(お座りて、お食べて等)。ただしこれは中年以上が主に使うようだ。



「~まい)、めー」(~しよう:勧誘)

・面白そうじゃん。行かまい)/行きめー
・たくさんあるで、もっと食べまい食べめー

勧誘の表現は「~まいかめー」と二つある。「めー」はおそらく「~まい」の連母音ai→ 長音eとなったものだろう。
 接続は、動詞の未然形(ア段)+まいめー、となる。これも東海地方で広く使われるが、長野県内では南部のみ分布している。接続法では静岡県の遠州弁と同じである。
 なお、共通語では勧誘も意思(行こうと思う、のように)も同じ語形だが、下伊那弁では本来区別される。すなわち意思形には、「~を使う。例は下表のとおり。
   

 (共通語)  勧誘形     意思形  
 行こう  行かまい  行か
 食べよう  食べまい  食べ

これは東三河弁・遠州弁でも同様の区別を持っている。しかし若者では意思形は行こう食べようと共通語化しており、勧誘の「~まいめーもやや少なくなってきているようだ。





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言い回し(文法)については以上だが、以下では特徴的な方言単語(俚言)を紹介する。

単語集

えれーなんたら」(すごく、とても
えれー雪が降ったなー。なんたら積もっとるわ。
・今月はえれーなんたら忙しかったんな。
・これ、なんたら美味しいわ。

ずく」(根気、やる気
ずくがなくなったで片づけられんわ。
・ホント、あいつずくなしだに

らんごく」(散らかっている
・家の中、らんごくしとるで入れんわ。

とぶ」(走る、慌てる
・廊下でとぶのはいかんだら。

たつ」((扉を)閉める
・出る前に戸をたっといてね。

前で(前手?)」(前の方
・それなら前でに置いてあるに

えらい」(疲れた、大変な
・走ってきたで、体えらい
・仕事えらかっただら

ほかる」(放っておく
・元の場所分からんかったら、ほかっときない
・そこにほかったらいかんらー。

単語についても、若者の間でかなり使われているものを選んだ。
 いわゆる「気づかれにくい方言」が多いようだ。これらの単語を県外で使って、初めて「方言」と認識することが多いという。ただ、共通語訳しにくかったり、感情を表したり、日常生活と密着した単語なら方言と気づかれても地元で使われ続ける可能性が高い。
 「ずくなどは長野県の全域で使われ、すでに紹介したように「21世紀に残したいふるさとのことばの1位に選ばれた。その意味が「信州人気質」を象徴するためだろうか。若者を含めてだれもが愛用しているという。

 単語ごとの分布状況は示さないが、「ずく、とぶ、前でのように長野県の大部分で使われているもの、「えらい、ほかるのように東海地方(愛知、静岡)と共通するもの、のように分けられる。この状況がまさに、東西南北の交流の場だった南信州の地域特性を示しているようで興味深い。

りんご並木付近の蔵をモチーフにした店舗。飯田市は「信州の小京都」と言われるが、大火で伝統的な街並みが失われた。近年は和風モチーフの建物が増えてきている。
天竜峡。荒々しい渓谷を渡し船で行くのは迫力満点。南信州の旅情を感じさせる。
川本喜八郎人形美術館(飯田市)。人形劇の街・飯田にちなんで2007年にオープンした。下は川本氏の代表作、NHK『人形劇三国志』の諸葛孔明の人形である。
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飯田城跡付近から市内を展望。南アルプスに抱かれたこの地域はどのような道を進んでいくのだろうか。
りんご並木(飯田市)。1947年の飯田大火から復興を目指して中学生の発案で植樹した。450mの並木で、防火帯も兼ねた公園として市民や旅行者に親しまれている。