図6.5: 長野県方言区画

はじめに地理・歴史から見た長野県の位置づけを特徴づけると、長野県(信州)は東京、関東と関係が深いということになる。現在でも東京志向が強く、長野県の若者の多くが進学・就職ともに東京方面に向かう。それを助長するように、交通アクセスでも利便性が向上している。
 ことばについても長野県の若者はほとんど共通語(東京語)と思われることばを流暢に話し、確認しない限り東京・首都圏出身と思えてしまう。全体的にことばの独自性を主張する動きは弱いのである。観光も自然を売り物にしたものが圧倒的で、観光土産で方言関係のものがかなり少ないということがこの地方の人々の関心の薄さを示しているようだ

以上をまとめると
  「長野県に方言(共通語≒東京語と は違う独自の特徴的ことば)はない」   という認識が内外で普及しているということである。
 
 もちろん全く方言が無いわけではない。アクセント、さらに気づきにくい方言単語は他地域の人の耳に付くし、地元民でも愛着を持つ人は多い(「ずく」(根気、やる気)はその代表格で、NHKの調査で「信州の残したい方言第1位」に選ばれている)。

 言い回しで有名なのは推量「〜ずら」であろう。
大部分の地域では推量「〜ずら」を使うというのは信州ならびに山梨・静岡で特徴的だ(ただし長野市など北部では「〜だらず」)。
 しかしもともと言い回しで東京・関東と共通点が多かったのは事実である。右の図で長野県方言が東西いずれの特徴を持つか示しているが、全域で断定の「〜」、および形容詞のう音便がないこと(「白くなる」など)が分布しているし、北中部で動詞の進行形「〜(てる」、否定形「〜ないなど東京語と全く同じ特徴が分布していることから裏づけられよう。この点、西隣の岐阜県(美濃・飛騨)が西日本的特徴の方言であることと対照をなしている。またアクセントも多少特徴があるとは言え、基本は「東京式アクセント」である。このような東京語との共通の土台があるゆえに、若者さらに老人でも信州の人はあまりに東京語を話すことに抵抗がない。意識面でも、地元のことばを「田舎くさく、ぞんざい」と評価する一方で、東京語を「きれい」と思えば、ますます東京語への同化志向が強まるのは必然だろう。

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南アルプス(飯田市にて)。信州(長野県)はこのような山々に囲まれた盆地世界の集合体である

(1)

長野県(信州)の方言って何?

(1)長野県(信州)の方言って何? 〜長野県方言へのアプローチ〜

(4)南信州の方言ってどう話すの? 
   〜南信州方言の言い回し・単語集〜1
 長野駅前の光景(長野市)。県庁所在地にして最大の都市(人口38万人)。新幹線開通後、東京とのアクセスが向上した。
A南信州は東海地方?

〜長野県方言へのアプローチ〜

(2)信濃国 今昔物語 〜信州の歴史と地理〜
 図6.4: 長野県方言内の東西対立
@長野県(信州)に方言はないのか?
信州 海への道

6.3

〜長野県の方言 南信州を中心に〜

(3)南信州の方言って、どんな感じ? 
   〜南信州の方言意識・地域意識〜

長野県と言えば、長野市や松本など県の政治・経済的中心がある北中部に目が向きがちである。しかし南部ではまだ独自性は根強いと聞く。
 図にもう一度着目すると、長野県内の方言の南北対立が見受けられる。つまり
南信州のことばは 動詞の進行形「〜(し)とる」や否定形「〜ん」 のように西日本的特徴を持つのである。
 これは日本全国の東西というマクロ視点によるが、もう少しミクロのローカルな視点に移ると、三河(愛知県東部)・遠州(静岡県西部)といった東海地方との共通点が浮かび上がる。つまり推量の「〜だら、ら」など愛知・静岡と共通点が多い
ということである。実際、北中部の人も

伊那や飯田(南信州)は愛知県に近いから、ことばも似ている

と言うことが多い。これは近隣同士の経済交流からも裏付けられる。この特徴は若者の間でも受け継がれていることが注目に値しよう。

 以下の項では、南信州を中心に信州(長野県)のことばについて説明していこう。

※ 長野県方言の区画について
長野県の方言は、伝統的に図6.5のように5区分されている。

A) 奥信濃方言 (北東端、栄村)
B) 北信方言 (長野市など)
C) 東信方言 (上田市、佐久市など)
D) 中信方言 (松本市、諏訪市、伊那市など)
E) 南信方言 (飯田市、駒ケ根市、木曽郡など)

これは6.1で挙げた通常の地域区分とは異なることに注意されたい。飯田などと同じ「南信地方」とされる諏訪、伊那がここでは「中信方言」に入り、松本とともに「中信地方」の木曽が「南信方言」の地域とされるのがその例である。

『長野県史 方言編』より

(補) 松本城とアルプスに抱かれて 〜松本地方の方言展望〜