三重県最大の都市(人口31万人)、四日市市の駅前。公害を克服したこの街は、環境保護など生活しやすさを重視した街づくりを行っている。
長島スパーランド(桑名市長島町)。東海地方で最大規模の遊園地。木製コースターのホワイトサイクロンなど楽しめる施設は充実している。
いつきのみや歴史体験館(明和町)。斎宮歴史博物館の近隣にあり、十二単の着付けや機織りの体験ができる。
二見浦の夫婦岩(伊勢市)。伊勢湾を背景としたここの日の出は神秘性すら感じさせる。

「〜やに(〜だよ)          

・あっ、もう十時やに。今、帰らんと電車間に合わんのとちゃう?
・あんたへの電話やに。早よ出な。
・準備は早(は)よしやなあかんのやに

これは関西弁では使わず、伊勢方言の特徴的な文末詞である。伊勢方言では文末詞(〜)が「〜」になるので、(〜だよ)→「〜やに」になる。東京語の影響を受けてか、「〜やよ」と言うこともあるが、定着したものではない。柔らかい語調なので、女性が多く使う。ただし男性でも使う場合がある。相手に言い聞かせるようなニュアンスがある。
 頻用されている訳ではなく、「〜やで」(後述)「〜やぞに置き換えられることが多い

2008年より登場したNHK津のCMキャラクターのキャッチフレーズは
   「いつでも、どこでも、一緒やに
である。

ところで調べたところ、他の地方でも使うところはある。丹波(京都府中部と兵庫県中東部)と岐阜県南東部は「〜やに」を使っているし、これに類して「〜だに」と言うのは愛知、静岡、長野などと鳥取県である。言うところの「方言周圏論」の一例だろう。




「〜やわやで」(〜だよ)

・仕事がむっちゃ忙しいで、行けやんのやわ。ゴメンな。
・ちょっと頼みたいことがあるんやわ。来てくれやん?
・それやで、俺はやめとけ言うたんやわ
・そんなん無理やで。やめときな。
・明日の天気、雨やで。どうする?

これも(〜だよ)を意味するが、相手にかまわず自分の主張をやや強調している。これは関西弁と共通している。「〜やで」については、近世京都語の研究から次のような変遷で出現したと思われる。

 「〜じゃぞえ」 → 「〜じゃどえ」 → 「〜じゃで」 → 「〜やで

上の二つは「〜やって」とも「〜やん)」とも言い換えられる。特に後者は、女子高生がさかんに使っている。「昨日、バイトに行ったんやん」は私からすれば奇妙に聞こえる。 名古屋などで「〜じゃんね(〜だよ)となっているが、それと軌を一にしているのだろうか?




「〜(んさー」(〜(な)んだよ)

・明日、バイトが入っとるんさー。ムッチャきついわ。
・長野へスキーに行ったんさー。ほしたらさな・・。
・むっちゃ難しい問題なんさー。教えてくれやん?

これも(〜だよ)を意味するが、「〜やわよりもさらに一方的な主張をしている。自己主張のニュアンスとしては、

 〜(んさー > やわ > やで > やに

となる。「〜やわさ」のように、さらに強い自己主張の表現もある。
 やや余談だが、2番目の例文のように間投詞でも「〜」を使い、伊勢方言の会話では「〜さー」「〜さー」が耳につくことになる。
 これも関西弁とは違う特徴である。中部から近畿でこれを使うのは三重県のみである。ほかに新潟県、群馬県で同じ用法で使われており、使用地域が散在していることが分かる。東京などではややキザな文末詞として「〜」が使われているが、上の地域ではきわめてリラックスした感じで使われているので、注意されたい。なお、沖縄の「〜さーと似ているが、意味は微妙に異なっている




「〜(するやわ」(自由に〜したらいいよ、勝手に〜してくれ)

・えらいみたいやで、そこに座るやわ
・出来上がったばっかりやで、早よ食べるやわ
・ほんなら勝手に行くやわ

あまり地元民も気付いていない方言だが、挙げておく。私も最近言われて、初めて気が付いた。 「動詞の終止形+やわ」で、上のような意味になる。共通語(東京語)で一言で訳せない文末詞である。最後の例文のように、突き放した語調の場合もある
 関西では全く使わないらしく、同類の表現は全国でも少ないようだ。その数少ない地域は愛知、静岡の一部であり、「食べる{だわだよ}」「行く{だわだよ}」のように言うらしい。




「〜」(〜よ)    〔類;〜

・それやったら、そっちに置いてある
・これ、めっちゃ美味しい。食べてみな。
・もう時間やで。早よ行こ
・この辺でやめよ。もう十時やん。

「〜やに」の所で述べたように、伊勢方言では(〜の意味で「〜という文末詞を使う。農村部の老人はあります」「よろしいのように敬語体でも使っている
 「勧誘の表現」とする説もあるが、「〜自体は(〜の意味しかない
 「〜で置き換えられることが多いが、最近は東京語の影響で「〜を使うことも増えている



「〜やん」(〜ない)  〔否定〕      〔類)〜へん〕  〔強調形)〜やへん

・こんなん、難してできやんわ。
・全然電話にやんのさー。どうしようもないわ。
・注文した本、全然やんなあ。いつ届くんやろ?
・見ん(見る)のか、やんのか、どっちなん? はっきりしな。
・ちゃんと連絡しやなあかんやろ。
・最近忙して全然休めやんなあ。
・そうやろー。そんなん、ありえやんって思うやんなー。

伊勢方言最大の特徴三重県で全域的に使われ、和歌山県でも使う。動詞の否定形であり、伊勢方言では大抵の場合、ない → やん になる。このため若者でよく使われる「ありえない」は、最後の例文のように「ありえやん」で自動変換される。なお、強調形で「〜やへん」があり、上のいずれの例文でも使える。
 なお、活用に注意してもらいたい。上で「大抵の場合」と言ったが、国文法で言う五段活用以外の動詞は全て「〜やんに接続可能である。すなわち未然形の母音がieoの動詞に接続できるということである。
 どういうことかと言うと、五段活用の動詞の場合未然形の母音がa」であり、

  買わない → ×買わやん    ○買わん、 買わへん
  言わない → ×言わやん    ○言わん、 言わへん

のように「〜」「〜へんが接続可能だということである。もっとも「〜へんは全ての動詞に接続可能で「見いへん、出えへん」のようにも言える(ややきつい語調である)。
 『三重県のことば』によると、伊勢方言などで「〜やんが発生した理由は「”見る”の肯定形を”ミンと発音するため否定形はそれとははっきり区別できる形が求められた」ということらしい(4番目の例文でその辺りの事情を思い浮かべてほしい)。
 ところで使用地域が限られているので、これを使うと関西でも目立つ。このような理由で他地方で生活するようになった三重県民がまっさきに使わなくなるのがこの言い回しである(「〜」や「〜ない」に置き換える)。他地方の人に通じなかったというエピソードを紹介しよう。

 前述のように西野カナがテレビで「入れやんと寝れやんくて」と発言したが、これは放送では極めてまれな例である

私の知り合いが九州をバス旅行したが、ガイドさんが「何か依頼があれば紙に書いて」というのに応えて、あることを書いた。それを見たガイドさんが不思議そうに言った。

「この、”カラオケ、つけてくれやん?”の”やん”って何?」

投書の主は、その言い方が通じない方言だということを知って、軽いショックを受けたという。


〜伊勢弁の話し方・言い回し〜

伊勢弁ってどう話すの?

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松阪商人の館(松阪市)。隆盛を誇った伊勢商人の暮らしぶりを今に伝える。

ここから伊勢方言の特有の言い回しと単語について解説していく。 私の地元である四日市市のことばを中心に記述している。全域で大部分共通するが、地域ごとに違う点があれば適宜説明を加えていく