六華苑(桑名市)。桑名の実業家・諸戸清六が英国の建築家コンドルに建てさせた。明治洋風建築の代表作で、庭園とともに重要文化財となっている。

◎「〜(んだ」(〜(し)なかった)  〔否定過去〕          〔類) 〜(んかった

・明日、予定があるって言わんだ
・最近、顔やんだけど、どうしとったん?
・あと一歩というところで、電車に乗れやんだんやわ

動詞の否定過去形はこのようになるのが基本的である。「〜やんと共に「〜へんにも「〜を付けることで過去形になる(「買わへんだ」「言わへんだ」など)。これは伊勢方言の特徴である。
 もっとも私の祖父などは「〜なんだ」とも言っていた(「なんだ」など)。私より下の年代になると、関西弁の影響か、「〜やんかったと言うことが増えてきた。変遷を追うと、

   「〜なんだ」 →「〜やんだ」 → 「〜やんかった

となるが、「〜やんだ」も依然として使われることが多い。
 ところで「いなかった → おらんだ」となるので、この地方では「オランダに誰もおらんだ(いなかった)」というダジャレを作れるわけである(苦笑)。


「〜(してへん」(〜(して)ない)  〔進行形否定〕     〔「〜ない」とも〕

・あんた、まだ年賀状書いてへんやろ。 早よ書かなあかんに。
・筆箱忘れたんやわ。 何か書く物持ってへん

上で書いたように、五段活用の動詞の否定形で「〜へん」が使われる。さらに「〜へんは進行形の否定にも使われる。ここで「〜やん」を使うことは全く無い。
 この辺り関西弁と共通するが、共通語のように「〜ないを付ける事も多い。「〜(とらんとも言えるが、あまり使わない。


「〜やろ」(〜だろう、でしょう) 〔推量〕

・注意しなって言うとったやろ
・あそこにデパートが見えるやろ? その辺まで行ったら分かるわさ。
・今、行かな、電車に乗れやんやろ。 早よ出よに。

ここから3つは関西弁と共通の言い回しである。伊勢方言が聞こえ上、関西弁と区別が付きにくい大きな要因である。
 女性もこれを使う
。このため、「〜だよね」「〜でしょーなどは伊勢方言話者にとって女性的に聞こえ、使うのに心理的抵抗が大きい。逆に東京語を使う人にとって伊勢方言の女性は乱暴な口調を使っているように思える。私の小学校の校長(静岡県出身)は「女の子はもっとやさしい口調でなければ」と言っていたが、我々地元民にはごく普通のことなので、キョトンとしたことがある。



「〜やん」(〜じゃないか、じゃん) 〔同意確認〕     〔派生)〜やんな(〜だよね)〕

・人多すぎて、全然進めやんやん
・そんなん、言えやんに決まっとるやん
そうやんな。どう考えたってできやんやんな

最初の例文のように「〜ないじゃん」が「〜やんやんとなるのは伊勢方言の特徴である。
 これの起源については関西の影響か、それとも独自に発生したのか分からない。老年層でも使っている人がいるので(元は「〜やんか」)、1970年代以降に東京語になった〜じゃんの影響でないことは確かである。ただ老年層では「〜がな」「〜がやを使うことも多い
 これの派生形の「〜やんなは中年以下で使われる(老年層は「〜やわな」)。東京語の「だよねー!」は「やんなー!」に自動変換される。もっとも私より下の年代では文末に限って「〜よな」に置き換えることが多い。


「〜ちゃう」(〜じゃない)

・そんなに後ろにおったら、見えやんのちゃう? 前に来な。
・ここって通れやんのちゃうやろうな?

これを東海地方で使うのは三重県だけなので目立つ。もちろん「違うに由来し、単独の違うちゃう」となる。



「〜(」(〜(だ)から)     〔理由〕

・もう夜中やで、寝よに。
・忙しなるんやで、今のうちに準備せなあかんわ。
・おいしい、一回食べた方がええに。
・来週は用事がある、あかんのやわ。

伊勢方言話者があまり気付いていない方言。理由の接続詞「〜を使うのは、名古屋など東海地方と共通している。 関西は「〜さかい」「〜から」を使っているので、ここが相違点となる。ただ前述のように、大正まで伊勢方言でも「〜さかいを使っていたという。おそらくそのセンテンスの長さで廃れ、「〜専用になったのだろう。このような状況は北陸の福井県でもあったようだ。
 最初の二つの例文では(〜だよの意味の「〜やでと同形なので混同しやすい。しかし

   文中の「〜やで(〜だから)    文末の「〜やで(〜だよ

と考えれば間違えることは無い。語源が違う二つの文末詞がたまたま同じ形に変化したので、このややこしい混同が生じるわけだが。
 なお、最近では文頭の「(それやで(=それだから)」に限って、「だから」に置き換えられることが多い。



◎「〜((〜(し)なさい)  〔命令〕

・できたてやで、早いうちに食べ
・雪が降るらしいで、早よ帰っておい
・あそこが空いとるに。座ん

あまり方言らしくないし、地元民も方言と気づきにくいがが、柔らかい命令形の伊勢方言である。
 ただしこれは四日市など北伊勢の言い方で、松阪や伊勢市など南伊勢では「〜ないも併用する 津の辺りでは、「たべー」「おいー」など、と言う)。

 私の妻は松阪出身で、通常は「〜」と言うが、子供をあやす時に「座っときな〜い」と言っている。この用法から「〜ない「〜の強調というか、相手に言い聞かせる意思を示すという機能が見える。

来なさい)は「おいな」と言うことが多いが、「」と言うこともある。
 伊勢方言では動詞の尊敬表現が「〜(なさる」になり、その命令形「〜(なされがこの由来である(農村部の老年層で「〜(なはれ」と言うこともある、余談ながら桑名出身の私の母は「〜(やんせ」とも言う)。
 東京語でも言うが、ややきついニュアンスか。伊勢方言では柔らかい言い方なので、カチンと来てはいけない。

愛知県の大学に入ってしばらく後、仲間たちとの雑談で方言が話題になった。

友人 「名古屋尾張)では”食べやー”、 三河(愛知県東部)では”食べりん”。じゃあ三重県では何て言うの?」
私 「・・・(少し思案)。 う〜ん、"食べな”とは言うなあ」

命令形の比較から、この表現が方言特有だと自覚したわけである。



「〜(して)みえる」(〜していらっしゃる)    〔尊敬〕

・○○さん、もう来てみえる
・昼ごはんは食べてみえたみたいやわ。
・資料は持ってみえます

これは名古屋など東海地方で共通の尊敬表現動詞の連用形+助動詞「〜て」にみえるを付けるだけで敬意を表すことができる。私がこれを使うようになったのは、成人して大人との交際が増えてからだが、非常に使い勝手が良い。共通語でも、、いらっしゃる → みえる とも言うので、方言と気付いていない人が多いが、動詞に付けて尊敬表現とするのは東海地方ならではである(農村部の老年層は「〜(して)ござる」とも言う)。
 関西弁の「〜はるに当たるが、「〜はるを使わないことが伊勢方言の関西弁とは異なる点である。関西の人が「〜はるを使うのを、「何をはるんや?」とこの地方の人は奇異に感じているということがある。

関宿(亀山市関町)。東海道の宿場の雰囲気を今に伝える重要文化財。街並みを保つため、銀行なども町屋の様式にしている(上写真)。ここから西に行けば、鈴鹿山脈を越えて近江国(滋賀県)に入る。
鈴鹿サーキット(鈴鹿市)。日本のF1の聖地として名勝負が繰り広げられる。園内の遊園地(モートピア)にはゴーカートなど車をテーマにした遊具を中心に楽しめる。大観覧車ジュピターがランドマークだ。
松阪牛の名店、和田金(松阪市)。この街には精肉屋、肉料理店が人口に比して非常に多い。下は和田金の界隈で、旧城下町を受け継ぐ。秋には氏郷祭りも行われる。

次ページへ

4.2の
先頭ページへ戻る
2013年3月に式年遷宮に合わせてデビューした新特急「しまかぜ」(近鉄四日市駅にて)。豪華な内装、良質の食事サービスなど、観光特急として全国的な話題となっている。