「ほる」(捨てる)
・ゴミ、ほる場所どこ?
・ゴミほり当番、決めやなあかんな。
・ここにある物、ほってええん?
物を捨てることを言う。「彫る、掘る」ではない。もちろん、「捨てる」も使うのだが、よりくだけた言い方として「ほる」を日常的に使っている。
「ゴミほり当番(ゴミ捨て当番)」
など伊勢方言地域の学校では当たり前の存在である。
気付かれにくい方言の一種で、県外でも使うと通じない。同じ東海地方でも名古屋では通じなかった(「ほかる」とは言う)。関西では通じるようだが、確認していない。
大学のサークルで行事の準備をした後、後輩の女の子(広島出身)にゴミを捨てるように頼んだ時、次のような対話を交わした。 「おい、これをほってきてくれ。」 「? ”ほる”ってなあに?」 「(ああ〜、やっぱり通じやんのか・・クソッ) 捨ててこい!」 |
「とごる」(沈殿する、溜まる)
・液体がとごるとあかんで、かき混ぜな。
・汁がとごっとるで、下の方が美味いわ。
これも意外に気付きにくい方言で、日常的に使う。理科の実験でもこの語が頻用されていたので、私も大学に入るまで方言とは知らなかった。地元民にはすんなりと共通語訳が思い浮かびにくい。
藤井隆が主演する『マシューTV』(テレビ朝日系)の「なまり亭」というコーナーで、女優の大谷みつほ(鈴鹿市出身)が 「どぶろくとか飲む時に使う」 と言って失笑を買っていた。 |
「(米を)かす」(米を洗う?)
・米3合くらい、かしといて。
・ようけの人が来るで、ようけかした方がええやろなあ。
「米を貸す」ではない。これも気付きにくい方言で、かつ日常語。これ以外の言い方が思い浮かばない。共通語訳は上のように書くのが通説だが、ニュアンス的に「(米などを)水に浸して炊き上がる状態に持っていく」というのが正確な気がする。
他に九州や東北の一部でも使うらしい。
「つんどる」(混雑している)
・高速はむっちゃつんどるやろうなあ。回り道してこか?
・道がつんどったで、遅れたんやわ。
車などが混雑している状態を表す。 これも気付きにくい方言で、渋滞時には苛立ちとともに頻用される。「混(こ)んどる」も使われるが、渋滞の状態をイメージ的によく伝えている。
語源はおそらく(手詰まりになって止まっている)という意味の古語「詰(つ)む」(将棋で「詰んだ」という形で現在でも使う)だと思われる。
「ケッタ」(自転車)
・道が狭いで、ケッタでしか行けやんわ。
・ケッタ置く場所、どこなん?
これは名古屋など東海地方共通の方言。名古屋から流入した可能性が強い。若者のスラング的な語彙で、改まった場では使われない。
私が子供の頃(1980年代)にはすでに普及しており、その折に下のようなエピソードがあった。
私が小学1年生のころ、友達が皆「ケッタ」を使っているのに、私はかなり遅く知った。その時の会話。 「ああ何や。"ケッタ"って、自転車のことか。」 「何や、お前知らんだんか? 遅れとるなあ(笑)。」 |
私より下の年代では廃れ、東京など同じく「チャリ」がもっぱら使われている。
なばなの里(桑名市)。広大なフラワーガーデンのほか、温泉、レストラン街など充実。展望マシン「アイランド富士」(下写真)からの眺めも雄大なスケールだ。夜のイルミネーションは年々グレードアップしている。 |
「いろう」(触る)
・これ汚れとるで、、いろたらあかんに。
・色々いろとったら、パソコン自体が動かへんようになったんやわ。
「触る」ということだが、使っている者からすると、「触る」よりも生々しいニュアンスがある。 乳幼児のしつけによく使われるが、機械など道具類を操作する時にもよく使われる。
「えらい」(疲れた、大変な)
・もうえらいで、寝たいわ。
・体えらいやろうで、今日は休んでええわ。
・昨日の仕事、むっちゃえらかったなあ。
疲れた時や仕事が大変な時に使う。非常に疲れた時、伊勢方言の人は「あ〜、えらあ(疲れたあ)!」と言う。「偉い」とは文脈で区別する。
名古屋など東海地方共通の方言なので、愛知県の大学で皆「えらい」を連発していたが、私には違和感が無かった。しかし関西では通じないようで、「何が偉いんやねん?」と聞かれるだろう(関西弁では「しんどい」)。後に知ったが、中国地方の鳥取や山口では使うらしい。
「むっちゃ〜」(とても、非常に〜)
・あの仕事むっちゃえらかったんやで。
・むっちゃ難しい問題やで、解けやんわ。
(とても〜)の意味である形容詞の強調形。若者の使用が多い。
これは関西弁と共通し(この語自体、関西から取り入れた可能性が高い)、新・名古屋弁の「でら、どら〜」は全く使われない。
「ようけ」(たくさん、多くの)
・休日やで、ようけの人が来とったに。
・やることがようけあり過ぎてえらいわ。
数が多いことをこう言う。地元民は「たくさん」のくだけた言い方と捉えている。若者も使う。関西で言う「ぎょうさん」と同じだが、この地方では「ぎょうさん」は使わない。
なお、名古屋でも元は使っていたようだが、最近は聞くことが無い。
津の官庁街付近。海に通じているせいか、ソテツの並木が作られている。 |
伊勢安土桃山文化村(ちょんまげワールド伊勢)の安土城模擬天守。原寸大に再現され、最上階は全面に金箔が貼られ、往時の豪華さを偲ばせる。 下はふもとに広がる城下町「領民の町」。 |
二見シーパラダイスにて。二見が浦に近く、アザラシやセイウチのショーが間近で見られる。 |
伊勢参りの人々で今日もにぎわうおはらい町(伊勢市)。21世紀も人々の平安を祈る気持ちに変わりは無い。 |
「おだつ」(調子に乗る、ふざける)
・あの子は人に褒められたら、すぐおだつでな。
・おだって酒飲んだらあかんわ。
・おだっとるだけやで、本気にしやんでええに。
ここから3つの語は、子供の頃しかられる時によく聞いたものである。私を含め地元民が共通語訳しにくいことばであり、染み付いている言葉である。
なおこの語の使用地域はほかに、仙台や福島、北海道、四国の一部などであり、散在している。調べていて驚いたが(^^;)、おそらく「おだてる」の自動詞であろう。共通語では他動詞の「おだてる」のみ残り、一部地域で自動詞形が残ったというところではないだろうか。
「おっちゃくい」(腕白な、乱雑な)
・おっちゃくい子らやで、ちらかしとるわ。
・おっちゃくい事したら、後で損するだけやに。
上と同じ。「横着い」と表記できる。 名古屋などでも同様の語を使うという(ただし「おうちゃくい」)。
(6)
「ちょうける」(ふざける、じゃれ合う、騒ぎあう)
・こら、授業中にちょうけるな!
・お前ら、子供のころ一緒にちょうけとったなあ。
前2つと同じ。意味は、ニュアンス的に最後がしっくり来る。語源は分からない。
私が中学校の時、後ろの席で2人が騒いでいた。すると、教師が怒って注意した。 「こら! ちょうけるな!!」 するとピタッとおしゃべりが静まっただけでなく、「おお、懐かしいことばを聞いたなあ」という感慨深げな反応だった。 |
〜伊勢方言の単語集〜
四日市港の夕景。コンビナートが立地する工業地帯で、近年港クルーズが産業観光の一環として開業。「工場萌え」の観光客の間で人気を集めている。 |
鈴鹿サーキットの大観覧車ジュピター。 |