(上)岩村城藩主邸の太鼓櫓(恵那市・岩村町)。本来の城跡はここからさらに山を登った場所にある。 
(下)岩村の城下町。坂道に沿って城下の町屋が今も残る。
多治見市街地を流れる土岐川

「〜やん、 やんね」 (〜じゃん、でしょう)
そこに何か入っとるやん。探しとったのこれやないの?
だからいかんて言っとるやん
明日から夏休みやんね。どこ行こう?
ほやらー! 絶対そう思うやんね
俺、昨日名古屋の栄に行っとったやんね。そしたらさ・・。

東美濃においても西美濃と同様に、(〜じゃん)を「〜やん」と言う。「〜じゃん」を使うことはないらしい。中年以上は名古屋・西美濃と同じく「〜がやがね」と言うが、若年層はもっぱら「〜やん」を使う。

 ところで「〜やん」は「〜やら」「〜やろ」より語調が柔らかいが、東美濃西部、特に多治見市若年女子の間では「〜やらの使用が控えられ、「〜やんを使う傾向が強いようである(「〜やらは最も感情が高まった時のみ使われるということ)。意味的には通い合うが、語調が柔らかく、かつ方言色が薄い「〜やん」を使うとはどういうことであろうか。おそらく名古屋方面からの転入者が増加しより柔らかい言い方が好まれるようになったのではないか。ほかに「〜よねも使用が増加しているようで、全体として東美濃西部の若年女子の間では、やや方言色が薄まる傾向にあるようである。東京と同様に「〜よね」「〜じゃん」の使用が拡大し、方言色が薄まるのは全国の広い範囲で見られるのだろう。

 なお、「〜やんね」は「〜よねの強めの言い方で、元来同意確認」の意味であるが(「〜やら」に類似)、一番下の例文では「〜だよ」の意味で使われている。聞き手が初めて聞く情報でもこう言うのだが、名古屋の「〜じゃんねの影響を受けて最近聞かれるようになったらしい。若者語の全国的な傾向と関係するのであろうか。相手は「そんなこと初めて聞いた」と突っ込みたくなるところである。ただ使われることはそれほど多くないという。

「〜よる、 とる」 (〜ている、 前者:進行形、後者:現在完了形)
雨が降りよる(降りょーる)で、傘持って行きゃー。
忙しくしよる(しょーる)時に、テレビ見る暇なんて無いやら。
ケッタ壊れとったで、修理出してきたわ。

共通語では全て「〜してる」で表わされるが、東美濃では進行形が「〜よる(〜しつつある)」、現在完了形は「〜とる(既に〜している)」と明確に区別される。東美濃の人は、英語で習う「進行形」と「現在完了形」の区別をできるということである! なお、西日本では中国・四国・九州の各地でこの区別があるようだが、中部より東であるのは東美濃ぐらいで稀有なことである。

 ただし、若者の間ではこの区別は消滅し、「〜とるに統合されているという。

馬籠まごめ宿(中津川市)。妻籠宿(長野県)と並ぶ木曽谷と中山道の宿場町の代表。近年越県合併により岐阜県に加入した。
多治見駅前の交差点。 名古屋方面からの転入者が増加し、マンションの建設ラッシュである。山と川に囲まれた穏やかな中都市が整備されつつある

「〜やー」 (〜しなさい、 命令形)
早いとこ寝やー。風邪引いとるんやで。
 分からんけど、とりあえずそこに置いときゃー
いっぺん多治見に来(こ)やー。いい所やよ。
やべえって。それは言うのやめときゃー
ちゃんと準備しやーよ

命令形は「〜やー」と言う。ただしこれは西部のみの言い方である。元になったのは敬語表現「〜(やーす」の命令形「〜(やーせ」である。『岐阜県方言の研究』では1970年ごろの老人の証言として「若い人がよく使っているが、よそから来た言い方のような気がする」との記述がある。「よそ」とは明らかに「名古屋」であり、東美濃西部が戦後名古屋の通勤圏となったことでもたらされたのは容易に想像がつく。

 ではそれ以前にはどんな言い方をしていたのか。

 東美濃の敬語表現としては「〜やーす」の他に、「〜んさる」がある。これの命令形は「〜んさい」で(「寝んさい」「行きんさい」等)、おそらく以前は東美濃全域でこのように言っていたのだろう。広島弁と同じ言い方であるのは言うまでもない。

なお東部では現在もこの表現を使っているという。中津川に「おいでん祭り」というのがあるが、「おいでん」とは「来(こ)やー」と同じ。よりくだけた命令形は「おいでん」「寝りん」「行きん」のように言うと推定される。

バカ〜」(とても〜)           〔ノーマル・レベル: メッチャ
ずっと待っとったで、バカえれーわ。
・あそこの店のラーメン、バカ美味かったわ。いっぺん行ってみやー。
突然怒りだしたで、バカびっくりしたんやて。
昨日の夜地震があったやら。いきなり揺れだしたで、バカこわかったわ。

東京で言う「ちょー」を東美濃西部ではこう言う(東部ではどう言うか未調査)。これは最も感情を込めた時の言い方で、通常はメッチャ」もしくは「すごい」が使われるという。時に名古屋の「でらどら」、西美濃の「でれ」に当るが、周囲とは全く異なる言い方で興味深い。ほかにバカ〜」を使う地域といえば、静岡県西部浜松など)や新潟県上越地方である! 東美濃とこれらの地域の間に交流があるとは思えないし、単なる偶然だろうか。由来が気になるところだ。
 

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