「〜で、 もんで」(〜から、理由)
・すごい渋滞しとるで、間に合わんわ。ゴメン。
・えらい人気あるで、チケット、簡単には手に入らんだら。
・疲れとるみたいだで、休みん。
・パソコン、壊れたもんで、仕事にならんわ。
・あいつ、やる気出んって言っとったらー。 だもんで、試験に落ちるんだわ。
理由の接続詞「〜で」は東海・中部地方の大部分で使うので、東三河でも当然使われる(「〜だから」→「〜だで」となる)。 若者の間でもかなり使われるが、共通語式に「〜から」に置き換えられることもままあるようだ。
一方、「〜もんで」については、共通語でも「〜もので」があるので、方言と意識されることが少ない。そのため、東三河の人は東京などよその地方でも使ってしまい、指摘されて初めて方言と認識することが多いようだ。 特に「だもんで」は他地方では耳に付きやすい。
付け加えるなら、かつては同じ意味で「〜もんだい」(「だもんだい」)という接続詞も広く使われていた。 「〜で」が変化したものらしいが、これは東三河だけに使われる。ただし現在は70代以上の高齢者のみが使っているに過ぎない。
「〜まい」(〜しよう、 勧誘)
・久しぶりだで、今日は思いっきり飲もまい。
・まだ時間あるで、もう一軒行こまい。
・気楽にやろまい。今日は貸切だで。
誘いの表現である「〜まい」は若者の間でもかなり使われるという。 現在では強い誘い文句というニュアンスがあるようだ。
分布範囲は東海・中部地方の広い範囲だが、本来の活用形が地域ごとに異なる。名古屋を中心とした尾張や西三河では「行こまい」「やろまい」であり、東三河では本来「行かまい」「やらまい」だったことが先行研究に書かれている(この活用形は、静岡や長野に連続する)。 これが現在、東三河でも「行こまい」「やろまい」となったのは共通語に影響されたものと考えられる。とは言え、現在でも「〜まい」が使われているのは興味深い。
余談ながら、共通語では勧誘も意思の表現も同じく「行こう」「飲もう」となるが(「行こうと思う」のように))、かつての東三河では、下表のように区別されていた。意思の表現が「行かあ」「飲まあ」のように長音「aー」で表現されていたのである(より前の江戸期には「行かず」「飲まず」)。 東三河ではかつて四段活用の動詞が存在していたことが分かる。これも共通語化によって現在は五段活用となった。
表: 伝統的な東三河弁での
動詞の勧誘と意志の区別
(共通語訳) |
勧誘形 |
意志形 |
行こう |
行かまい |
行かあ |
飲もう |
飲まい |
飲まあ |
「ど〜」(とても、すごく) 〔ノーマルレベル) すごい、えらい、むっちゃ〜〕
・昨日の夜はど暑かったら。だもんで寝不足なんだわ。
・あの試験、ど難しくて全然分からんかった。
・ちょっと見んうちに、どすげーことになっとったんだよ。
・走ってきたで、どえらいわ(すごく疲れた)。
東京の「ちょー〜」、関西の「むっちゃ〜」に当る形容詞の強調表現。 豊橋はじめ東三河の広範囲で使われる。 名古屋や西三河では「どえらい」に由来する「でら〜」「でーれー〜」などが使われるが、東三河では「ど〜」を付けるだけで強調表現になる(動詞にも接続可能ともいう)。東京語でも「ど・でかい」「ど・真ん中」などの例があるので、 「ど〜」自体がもともと「とても〜」の意味を持っていたと考えられる。ここから、東三河弁は「〜ら」の場合と同じく元からの用法を忠実に受け継いでいるということが言える。
若者ことばのように思えるが、『豊橋の方言集』によれば、1960年代生まれの中年層が使っている例が見られる。したがって、この表現の出現は遅くとも1980年代だと思われる。
もちろん最大級に強調する表現なので、通常は「すごい、えらい、むっちゃ〜」などで強調される。