吉田城隅櫓豊川。 川沿いに建つ城の景観が素晴らしい。 時折、漁をする人の姿も見られる。
路面電車は豊橋の象徴。東海・中部地方では唯一「路面電車が走る街」としてアピールに努めている。

「〜だわだに(〜だよ)     〔〜だよ〕とも

・昨日バイトがあったもんで、行けんかったんだわ
・そう思うら。だで、言ってやったんだわ
・チケット余っとるんだわ。 一緒に行かん?
・だからいかんって言っとるんだわ
・明日の天気、雨だに
・いい所だに。一遍おいでん。

東京語の断定語尾「〜だよ」に当る言い方。 「〜だわ」は名古屋や西三河でも使うが、東三河ではそれと共に「〜だに」もよく使われる(名古屋や西三河では「〜だに」は女性語としてわずかに使われたのに対し、東三河では頻用されたのは特徴的)。 語調的には、

 「〜だわ」 > 「〜だに

という感じである。「〜だわが自分の感情を一方的に表すのに対し、「〜だには聞き手を意識しているニュアンスである。ただしこの二つは現在では「〜だよに置き換えられることが多い
 「〜」は(〜)の意味の終助詞なので、「いかんわ」「あるに」「おいしいに」のようにも使える。
 インフォーマントによれば、「自分や男の友達は”〜だに”を使ったことも聞いたこともない」と言う。しかし豊橋方言の研究書では必ず掲載されているので、少なくともかつては広く使われたのは間違いない。私も豊橋で若い女性が使ったのを一度だけ聞いたことがある。 現在の「〜だに」の使用状況については、個人差があるのか、あるいは男女差があるのかは現段階では分からない。より包括的な調査が必要である。
 なおインフォーマントによれば、名古屋や西三河で言う「〜だっては使わないという。もっとも私の観察では、豊橋付近の高校生が使っていた。上の二つとのニュアンスの違いや使い分けについても調査が必要だ。

 ついでながら、老年層では「〜だに」より強い断定語尾として「〜だぞんを使っていた。しかしこれは若者の間では全く消滅している。

「〜だら」(〜だろう、 推量・同意確認) 

・テスト、来週だら。どうやって勉強したらいいか分からんわ。
・忙しいだろうけど、やるって言ったことはちゃんとせんといかんだら
・これ、綺麗だら。 すごいいいと思わん?
・一生懸命やったら、できるだら。明日までにやっといでん。
・来週、旅行に行くだら。お土産、忘れんでね。

じゃん・だら・りん」の二つ目。 西三河でも使うが、東三河ではやや確実度の高い情報に使う点が特徴的である。 名詞など体言だけでなく、動詞、形容詞など用言にも接続可能である。 共通語の「〜だろう」→「〜だら」への変換法則が必ず成り立つのではなく、文末にのみ同意確認の用法で使うのは西三河と共通する(かつては二番目の例文のように文中でも「〜だらあ」を使っていたらしい)。 
 
 吉川利明によれば、昭和初期まで「〜ずら」だったが、共通語の「〜だろうの影響を受けて、それ以後「〜だらに変わったのだという。 古い会話資料やその世代の話者の証言でも確認できるので、これは間違いないだろう。 「〜ずら」→「〜だら」の交代は、静岡や長野でも起こったが、豊橋付近ではそれが最も早かったという。
 「〜ずら」の語源は、古典語の完了の助動詞「」+推量の助動詞「〜らむ」だというのが有力な説である。 しかしそれでは意味にズレがあるので、疑問が多い。江戸期には「行くだろう」→「行かず」だったようだが、これから「〜ずら」への変遷が上の説では説明できない。 もう一つの説が、確実な意思の助動詞「〜」+「〜らむ」というが、これなら江戸期の「〜」とのつながりを説明できる。しかしこれだとなぜ名詞に接続できるかという問題がある。
 
 「〜だら」のニュアンス・用法を知る上で、前身の「〜ずら」の語源についてさらなる検討が必要である。

「〜」(〜だろう、よね、 推量・同意確認)

・あそこに郵便局が見える。あそこを曲がったら、すぐだわ。
・そんなに結婚するのが大変なら、せん方がいい
・だら! 誰が見たって、そう思う。 だから注意したんだよ。
・就職説明会、あさってって言っとったらー
・工事の音がうるさい。全然聞こえんで、大声で言ってよ。

推量・同意確認の文末助動詞第二段。「〜らー」と伸ばすことも多い。これこそ西三河とは異なる、東三河弁の一大特徴である。「〜だら」よりは確実度が下がり、軽い感じの確認に使われる。上の3つの同意確認の表現を確実度の高い順に並べると、以下のようになる。

「〜じゃん」  「〜だら」 「〜

東京語の「〜よね」に当るが、この「〜は東三河弁の方言色の保持に貢献している感がある。若者の友達同士の会話で「〜よね」の意味で頻用されているのである。東日本の広い範囲で同意確認に「〜よね」「〜じゃん」「〜でしょーが使われるようになり、それが東京語化に拍車を掛けている。西三河の「〜だら」もこれら東京語式の置き換えられ、衰退しているのは指摘した。
 上の「〜だら」との違いは、確実度の高さのほかに、もう一つある。「〜だら」は体言にも用言にも接続可能だが、「〜は動詞・形容詞など用言のみ接続可能である(したがって「雨ら」などは誤り)。その理由は、語源が古典語の「〜らむ」だからである。 「〜だら「〜の使い分けから、東三河弁は元となった古典語の用法を忠実に受け継いでいることが分かる
 
 「〜」は静岡や長野でも連続的に使われるが、東三河弁には欠かせない表現なのは間違いない。

ヨットのモニュメントがある蒲郡駅前。ヨットで世界一周を成し遂げ、蒲郡に帰港した「エリカ号」を記念している。 
(東)三河弁ってどう話すの?

(5)

〜東三河弁の話し方・言い回し〜

「〜じゃん(〜じゃないか、 同意確認・詠嘆)

・雨が降っとるじゃん。これだったら試合、中止になるわ。
・そんなこと、できんに決まっとるじゃん。やめときん。
・日曜も仕事があるじゃんね。だもんで行けんわ。
・締め切り近いから、早いとこ終わらせんといかんじゃんね

西三河と同じく「じゃん・だら・りん」三大三河弁の一つ。 大正から昭和初期にかけて、西三河と同じ頃に若者が「〜じゃんか」と言い始めたらしい。 かなり確実度の高い同意確認の表現になるが、それから転じて一方的に自分の感情を詠嘆的に表す用法もあ
 ところで、名古屋、西三河ではこの場合、「〜じゃん」と共に「〜がやがん」を使う。 これは東三河弁には全く存在しない。 このように「〜がや系の表現の有無は東西三河の方言の違いと考えられる。
 なお、「〜じゃん」から派生した「〜じゃんね」は同意確認だけでなく、自らの状況説明にも使われる。これは名古屋や西三河でも同様である。

豊川稲荷(豊川市)とその門前町。全国の稲荷神社の本山的存在で、徳川将軍家からも篤い尊崇を受けた。ここの宝物は美術的にも価値が高い

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長篠鉄砲資料館。 戦国期の鉄砲関係の展示が充実している。長篠の合戦を中心に当地の歴史についても室の高い展示がある。