4日目はついにバルセロナを離れる日である。その後の行き先は当初いろいろ迷っていた。
 一つの案だったのが「バレンシア」である。バルセロナから南下して3時間の地方。オレンジの産地として有名だが、スペイン有数の米作地帯でもある。ここはパエーリャ発祥の地としても知られる。この事実から分かる通りすこぶる温暖な土地であり、また地中海に面したリゾート地としても有名である。3月の半ばのその時期はちょうど「火祭り」という一大イベントをやっており、興味が湧いた。しかし滞在期間が一週間と限られているので、断念した。

 そして次の行き先に決めたのが「セビーリャ」である。南スペインアンダルシア地方の中心地。今日は「AVE」でのべ6時間かけてそこへ向かう。
 
 AVEは「スペイン版新幹線」である。1992年に開業した。乗ったのが一等車だったためか非常に快適である。写真に載せていないが、座席はグレー、間隔も程よく空けていて、座り心地がいい。食事の出し方は飛行機の「機内食サービス」と同じで高級感を出している。バーラウンジもあるのが驚きだった。外観がフランスのTGVと似ているのは、その技術を導入したためである。
 
 行程はバルセロナからマドリードを経由してセビーリャへと至るというものである。その車窓から見える景色から私は「二つのスペイン」を実感した。
 「二つ」とは「茶色のスペイン」と「緑のスペイン」である。前者を「荒野のスペイン」、後者を「沃野のスペイン」と言い換えられる。
 
 「荒野のスペインはバルセロナからマドリードに至る途中の景色だった。それは人家や畑が全く無く、一面平坦な荒野が広がる光景である。「西部劇で見るような光景」と言えば分かってもらえるだろうか。これを実際に目にした時衝撃が大きかった。日本だと山に囲まれたほどほどの広さの平野や盆地が広がるという景色が多い。そういう国から来た者にとって、一面だだ広い荒野という光景は度肝を抜かれてしまう。知識として知っていても、いざ現実として見るとただただ圧倒されてしまったわけである。こういう感覚は日本人だけでなく、韓国人、あるいは中国南部の人にも理解できるのではないだろうか。
 スペインは日本の3倍の面積を誇るが、人口は3分の1の4000万人台である。したがって、都市と都市の間に無人の荒野が占めることが多い。荒野の大海の中に小規模な村が散在するというのがスペインの一般的光景である。これらの地方では当然ながら雨量が少ない。というわけでここで生産される農産物は小麦、ブドウ、オリーブといったところが代表である。また羊の放牧地も多い。これが「荒野のスペイン」の実態である。

 ただこれはスペイン全土の光景ではない。
 マドリードから南下してアンダルシア地方に入ると沃野のスペイン」となって、緑が多くなるように感じた。この地方では水も豊富で樹木が多くなる
 その大きな理由として考えられるのが、農業用水の灌漑が発達していることである。これは中世にこの地方を支配していたイスラーム教徒アラブ人が西アジアから進んだ灌漑技術を導入したことが関係しているらしい。先に触れたバレンシアも同じ理由で緑が豊富らしい。そしてこれらの地方では小麦とともに「米」の生産が多い。こうして「スペインの国民食」パエーリャの重要な供給地が形成されている。
 
 車窓からスペインの地方間の違いを目の当たりにしたのは大きな収穫であった。
 こうしてアンダルシアの中心地セビーリャに足を踏み入れたのである

新幹線AVEの旅

いくつものスペイン

バルセロナ中央駅サンツ駅前の光景。ここから多くの旅人が出発する。
スペイン新幹線AVE。内装もサービスも良く、乗り心地は快適だ。
AVEの車窓から。「これぞスペイン!」の光景。
  図4: スペイン全土の路線図とAVEによる行程
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※ 赤い路線が新幹線AVEの行路

バルセロナ → マドリード
→ セビーリャ

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