発音に関しては日本人にはやさしいだろう。母音で終わる語が多く、子音で終わるのもnかsが大半だ。この性質からスペイン語は発音が明瞭に聞き取れる。
表記と発音の差はほとんどない。大雑把に言って、ローマ字的に発音すれば間違いない。この点も英語、さらにフランス語と比べて、日本人に取っ付きやすい。
ただ気を付けるべきは
@「h」を発音しないこと(「Hola」を「オラ」と発音)
A「j」がハ行の発音になること
である。男性名の「Jose」は「ホセ」であり、「Jorge」は「ホルへ」である。日本が「ハポン(Japon)」となるのはこういう理由だ。これに則れば、小泉純一郎・元首相の名は「フンイチロー」と発音されるわけだ(笑)。
もう一つ「lla」は「リャ」あるいは「ジャ」である。私が、
・パエリア→「パエーリャ(paella)」、
・セビリア→「セビーリャ(sevilla)」
と頑固にも書いてきた理由がこれだ。
一方、文法は難解というのが定評である。
スペイン語は、文法の性質から「屈折語」に分類される。これは英語ほか欧州言語の大半が含まれる。ちなみに日本語や韓国語は「膠着(こうちゃく)語」、中国語やタイ語は「孤立語」に分類される。
英語では「私は」は「I」、「私の」が「my」、「私を」が「me」になるが、スペイン語もこれと同じく
「ジョ(yo)」、「ミ(mi)」、「メ(me)」
に変化する。これは屈折語の一大特徴である。
だが、それだけではない。動詞の形が主語によって変わるのがスペイン語の特徴だ。
英語の場合、「三人称単数現在」の動詞に「s」を付けるだけである。ところが、スペイン語はこれほど単純ではない。「食べる」なら
「(私は)食べる」→「como」
「(あなたは)食べる」→「comes」
「(彼は)食べる」→「come」
となる。このように主語がどれかによって動詞が語尾変化(活用)するのがスペイン語だが、これは本来「屈折語」の重要な特徴である。
動詞の語尾によって主語が分かるのだから、スペイン語において主語は省略されることが多い(付けても可)。また英語と違って、動詞の後ろに主語を持ってきても構わない。
このように動詞の語尾によって主語を明示するという特徴は、言語学で
「形式と意味の論理的一致」
と呼ばれる。「動詞の形には意味がある」ということである。これの効用は、例えば関係代名詞を使う長い文章で主語が明瞭に分かることだ。
スペイン語の先祖である「ラテン語(ローマ帝国の公用語)」はこの特徴をもっとも明確に持っていた。スペイン語、さらにイタリア語は割合この特徴を保持している。
英語の場合、この特徴がかなり単純化された(元々はもっと厳密だったが)ので、「主語+述語+目的語」という語順を厳しく守る必要が生まれた。単純化された分、話し言葉としては簡単で使いやすい。しかし正直なところ、単語をバラバラと並べるだけという感が強く、長い文章となると主語がどれか混乱することが多い。フランス語は英語よりはましだが、スペイン語に比べると、その度合いは弱い。
「スペイン語は論理的な言語だ」という主張があり、私は以前は「まゆつば」と思っていたが、これには十分な根拠があったのである。
ただそのような効用があるといっても、初学者には大変である。特に大学でスペイン語を学ぶ学生は、試験対策で覚えねばならず、厄介なことこの上ない。
上で挙げた「食べる」は「規則変化動詞」なので、わりあい語尾変化に規則性を見つけられるが、「不規則変化動詞」となるとこんなものではない。英語のbe動詞に当るもの(〜である)は
「soy(私は〜である)、eres(君は〜である)、es(彼、それは〜である)」
のようになる。ほかのあまり使わない動詞となると、もう覚えきれない。このため「スペイン語はメチャクチャ難しい」という学習者の嘆きもよく聞く。
ただ旅行者については文法に頓着せず、覚えた単語をどんどん使えばいいと思う。動詞の活用がデタラメでも、旅行者の言わんとするところをスペイン人も読み取ってくれるのではないだろうか。
何にせよ、スペイン語を使うことでスペイン人と仲良くできるし、スペイン旅行が楽しくなることは請け合いだ(笑)。
|
|
マヨール広場にはさまざまなパフォーマーが集まる。珍しいところではアジア系らしい胡弓の奏者がいた。 |
|
|
王都の風格を感じさせるマドリードの街並み。 |