スペイン統一は、イサベル女王フェルナンド王カトリック両王)によって成し遂げられた。スペイン南部のグラナダ王国を下して統一を達成したのは1492年である。それからまもなく両王の後援の下で、コロンブスがアメリカ大陸に到達した。その後、スペインは中南米の大部分とフィリピンを植民地にし、日没なき帝国」と呼ばれた。時代は「大航海時代」となっていたが、スペインはその最初の覇者として繁栄を謳歌した。
 王室に話を戻すと、二度にわたって王家が代わっている。大雑把に言えば、次のようになる。

16〜17世紀、 ハプスブルグ朝
18世紀〜現在、  ブルボン朝

 まずカトリック両王の外孫が王位を継ぎ、「ハプスブルグ朝」となった。オーストリアを支配し、後にマリア・テレジアやマリー・アントワネットを輩出したのがハプスブルグ家」である。たまたま両王の息子達が次々亡くなったので、外孫のカルロスに王位が回ってきた(カルロス1世)。 その息子フェリペ2世の下で「黄金世紀」を迎えるが、「無敵艦隊」がエリザベス1世のイギリスに敗れた後、一気に衰運に向かう(この経緯は近年の映画『エリザベス ゴールデン・エイジ』に描かれていた)。対外戦争での度重なる敗北と王の側近達による暴政が衰退に拍車をかけた。
 
 ハプスブルグ朝は1700年に男系が絶え、王位はブルボン家に受け継がれる。このブルボン家初代の王フェリペ5世は、かのルイ14世の孫だったのである。ルイ14世は、自身の母と妻がスペイン王女なので権利はある、ということで孫をスペイン王としたのだ。当然フランスとスペインの一体化を危惧した近隣諸国との間で戦争が起こったが(スペイン継承戦争、1701〜1714年)、結局フェリペ5世の王位は認められた。この戦争は絶頂期にあったルイ14世が晩節を汚し、フランス王家衰退の原因となったという意味で重要である。
 それはともかく、ブルボン朝の下でスペインはやや復興する。「啓蒙改革」と呼ばれる上からの近代化路線が功を奏した。

 さらに言えば、現在の王宮はまさにこのブルボン朝が建設した。ハプスブルグ時代の王宮が火事で全焼した後、フェリペ5世がベルサイユ宮殿を模した王宮の建設を命じたのだ
 ベルサイユ宮殿など「バロック建築」は「絢爛豪華」という修飾がよく使われるが、ルイ14世の孫であるこの王によって王宮と共に絢爛豪華な宮廷文化がスペインに持ち込まれた。それはスペインの文化水準の向上という意味で大きかったと言うべきだろう。
 王宮のみならず、周辺にはさまざまなバロック建築がある。この辺りがベルサイユと似た雰囲気なのはこのためである。

 王宮の内部は、やや控えめながら「豪華」なものである。ベルサイユの「鏡の間」を模した部屋もあった。絵はがきやガイドブックで見た以上である。
 なお内部は撮影禁止なので、残念ながらここに写真は掲載できない。

失敗談を言えば、「No Photo」という表示に気付かずシャッターを切ろうとしたら、係員に

No Photo!

と怒られたのだった・・。

とは言え、王宮内の豪華な装飾や絵画は私の思い出の中にある。
 
 王宮の見学は少なくとも2時間必要だ。なにしろ見るべきものが多い。ちょっと呆気にとられたのは、宮殿の庭で孔雀(!)が放し飼いにされていたことだ。未だに意味は不明。
 なお多少興ざめなことを言えば、現在ここに王家は住んでいない。「ここは広過ぎる」ということで、住まいは郊外の離宮である。もっともそのおかげで毎日のようにオープンに見学できるわけだ。ただしこの王宮は「迎賓館」として国内外の賓客を接待するのに使われる。

 ところでブルボン朝は途切れることなく現在まで続いている。したがって現国王はルイ14世の子孫」ということになる。
 いったんは、共和国→フランコ体制となって王制が廃止されたが、ファン・カルロス1世(現国王)の下で王制復帰と漸進的な民主化が行われた。スペイン民主化のソフトランディングを成し遂げたということでこの王の存在は大きい。

 マドリードは王宮をはじめほとんどの建築がブルボン朝時代のものだが、ハプスブルグ朝時代のものがわずかながら残っている。それが「マヨール広場」である。
 マヨール広場は、カフェなど多くの店が立ち並び、大道芸などパフォーマンスが至る所に行われている。私が行った時にはアジア系らしき人が「胡弓」の演奏をしていた。16世紀の建築物に囲まれて、現在も賑わいが演出されているのは、なんとも味わい深い。

 王宮の豪華さに感銘を受けた後、マヨール広場の賑わいを見たのは大いに収穫だった。その楽しい思い出は、昼食に食べたパエーリャの味と共に残っている。

マドリードC

王都の品格(後編)

スペインの歴史を見続けていた王宮。ベルサイユを模した豪華さの中に優美さが感じられる。
なぜか王宮の庭で放し飼いされていた孔雀(!)・・・。
マヨール広場にて。
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