「名古屋の浅草」大須。かつての「下町」の雰囲気を今に残す。伝統的な名古屋弁はこの界隈の老舗でわずかに残るのみという。
中心部の名古屋のテレビ塔前の光景。1954年に完成し、戦後の名古屋復興のシンボルとなった。この辺りは「セントラルパーク」と呼ばれている。
栄地下街のクリスタル広場。後方には日産車の展示場もある。
(上)名古屋港のポートタワー。自動車の輸出港としては日本一。他の工業製品の輸出も多い。
(下)隣接する名古屋港水族館も見ごたえ充分。
発音) みゃあみゃあ音は消滅 共通語と同じ
 
かつては名古屋弁の代名詞でもあった「みゃあみゃあ(言語学的には「aiaeea」となる”連母音融合”、例)赤い→あけゃ、 どえらい→どえれ、 うまい→うめゃあ、 お前→おめゃあ)だが、これは中年以下の世代では全くの死語である。使うのは60代以上のお年寄りばかりであり、街中でもその種の言葉を聞ける機会はほとんどない(「名古屋の浅草」と言うべき大須では結構聞こえるかもしれないが)。
 
 ただもともと老人でも公の場面ではみゃあみゃあ音の使用を控えることが多かったようで、当人達も「基準(標準)は『赤(あか)い』『うまい』で、『みゃあみゃあは私的な、気安い場面での訛り」と考えていたらしい。東京でも「赤い→赤(あけ」「うまい→うめえ」という連母音融合があるが、公の場面では控えられる。名古屋でも東京と同様の使い分けがなされていたと考えるべきだ。
 
 ついでに言っておくが、外来語はみゃあみゃあ音に変化しない(させない)。つまり、タモリの言うような「エビフリャーを使う名古屋人ははなから存在しないのである(「いや使う人もいるぞ」という噂も聞いているが、疑わしい)。「赤い→赤(あけ」式の連母音融合がある東京でも「エビフレー」とは言うことはありえないだろう。それと同じ理屈である。
 確かに名古屋弁の場合、「大根→でゃあこん」、「台風→てゃあふうのように名詞もみゃあみゃあ音で発音されるが、それは伝統的に日常生活に結びついた物についての話である。外来語がその適用外であることは理解されるだろう(ほかにも、大学→でゃあがく、愛知→えゃあち×である)。

 ここまでなにやら「みゃあみゃあ」を貶めることばかり言ってきたかもしれないが、私は決して「みゃあみゃあ」を下品だとは思っていない。別の所でも書いたが、たまたま80代の人の名古屋弁を聞く機会があったが、ゆっくりした口調だったので、なんとなく品のようなものを感じた(早口で話されると閉口するかな?)。
 
 若い人の間で「みゃあみゃあ」が廃れたのは学校教育やマスメディアの影響が大きいのだろう。私が思うに、日本語では方言の発音は真っ先に矯正の対象とされるものであり(東北や出雲の「ズーズー弁」のように)、名古屋でも割合早い時期(昭和20年代か?)に若い人はみゃあみゃあを言わなくなったのだと思う。名古屋の若い人(2006年現在、30代以下の人)が「『どえりゃあうみゃあ』とか”みゃあみゃあ”はおばあちゃんの言葉」と言うのがそれを裏付けている。若い人の間ではみゃあみゃあ」はごくたまに冗談でどえりゃあうみゃあ」のように使われる程度である。連母音融合はあるが、「うまい→うめえ」という具合に東京式になっている。これは全国的な傾向だろう。

 参考までに付け加えると、「みゃあみゃあ」音は名古屋だけのものではない。同じ濃尾平野にある岐阜県西南部西美濃)にも当然あるが、秋田県北中部静岡県中東部京都府北部の丹後半島広島県東部備後地方)など、かなり色々な地方に散在している。
 特に京都府の丹後半島のことばは「みゃあみゃあ」を使うだけでなく、「だがや」「だでを多用するなど名古屋弁そっくり)だという。この現象を説明するには、日本語全体の歴史を視野に入れる必要があるだろう。



音便)  元々「う音便」 現在では少ない
 元々名古屋弁は
西日本式に形容詞のう音便」の地域だった。これの東の境は西三河(岡崎付近)らしいが、伝統的に名古屋弁は「あつうない」「たこうない」のように「う音便」を使う地域だった。現在の若い世代ではほとんど共通語式になっているが、ごくたまにう音便の名残が見られる(下例へ)。ただし、使うのはほぼ男性のみである。

・クーラー効き過ぎて、ちょっとさむない
・そんな事やりたねーわ



 アクセント)
東京式アクセント
 関東から中部・東海にかけて広い範囲ではこのアクセント体系である(「雨、橋」などの発音で判断する)。名古屋人は東京に行っても比較的楽に共通語を話せる東京語に抵抗がない、というのにはこういう理由があるのである。次ページ以下の例文はそのつもりでイメージしてもらいたい。

 イントネーションに少し特徴あり
 もっとも「名古屋訛りはあるぞ」と言う人も多いだろう。「東京式アクセント」の地域といっても、部分的に東京語とアクセントが違うケースも多く、そのせいで名古屋弁のイントネーションは少し違う感じがする。代表的なのは、「いる居る)」のアクセントが前に付く所だろう。

  例)・そこにずっとるよねー。

これはもともと「る」と言っていたものが、共通語化してもアクセントだけは元のままで残ったものである。この種の例は多い。

(専門家によれば、名古屋弁のアクセント体系は内輪東京式アクセント」で、東京語のアクセントと基本的に同じだが、いくつか単語のアクセントが異なるという)

 ただ中年以上の人に比べて、若い人の間ではイントネーションも大分東京式に近づいているようだ。東京などの人も名古屋人のイントネーションにそれほど違和感を感じていないらしい。政治家の河村たかし(名古屋市長、名古屋出身)の会話を聞くと、かなりクセが強い感じがする。たぶん、あれが本来の名古屋式イントネーションだったのだろう。
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(3)みゃあみゃあって、猫みたいにしゃべるの?
    〜発音・アクセント〜