三重県は名古屋の西南隣にある目立たぬ地方である。そして外部では「東海地方=名古屋」というイメージから、全域で名古屋弁のようなことばが話されていると考えてしまう。しかし三重県に入れば、明らかに関西弁のようなことばが話されている ということで驚かれる。この辺りの状況は、名古屋から近鉄電車に乗って、桑名まで来ると関西弁らしきことばが聞こえる、ということで確認できる。
 アクセントについては他のところでも述べたが、

   関西式アクセントの三重県   東京式アクセントの愛知県


このように隣同士で全く異なっている。方言の系統も明らかに別なのは言うまでもない。なお、アクセントの境界線は正確には長良川と揖斐川にあり、このようにクッキリと方言の境界線となっている全国的に稀な例なので、研究者の間でも注目されてきた

 研究者による方言区画では、三重県方言は「近畿方言」なので
関西弁の仲間と考えても間違ってはいない。三重県を人体に例えれば、「片腕を愛知県に引っ掛けながら、体全体が近畿地方を向いている」となる。首の辺りから近くには京都があるかつての首都の近くだけに大きな影響を受けたのは当然だろう
 しかし「三重県の人は関西弁なんだね」と断定されるのは、少々困惑する。
細かいながら様々な面で違っているが、関西弁にあって、三重県では使わない言い方を2つ挙げる。
「〜ねん(〜のだ)」 「〜はる(いらっしゃる)」を使わない ということである。下の表は具体的な比較例である。

関西弁 三重県方言
やねん なんや
あるねん あるんやわ、あるんさー
してはる してみえる

地域区分でも東海地方と扱われ、名古屋との関係が深くなっているので、関西への帰属意識を持ちようが無い。
 付け加えると、私は知り合いから「三重県のことばは”エセ関西弁”」などと言われたことがあるが、独自性を否定されたようで、腹立たしかった
 また「三重県方言と関西弁は違う」ということに関して、下のようなエピソードがある。
  

私が関宿(亀山市関町)に行った際、地元の若者が次のように話していた。

関西弁、なんかきっついやろ

よその人から見れば、「自分が関西弁を話しているのに、何をバカなことを」と思われるかもしれない。しかし上で縷々述べたように、三重県方言と関西弁は異なるし、意識面でも両者を区別する想念が強い

 ここまで述べたことで、私が関西弁に悪いイメージを持っていると誤解されるかもしれないが、決してそうではない。関西は普通に都会で「すごいなあ」と思っているし、そこのことばにも似ていて親しみを持っていることを強調しておきたい。
 
 以上のようなことから三重県民の関西への意識は、カナダ人がアメリカ人に対して」「ベルギー人南部フランス語地域の住民がフランスに対して」抱いている意識と同じかもしれない

近隣に同種のことばを話す大勢力があり、複雑な対抗意識を持っている

ということである。



※ 2011年に三重県を舞台にした高校生レストラン(松岡昌宏、伊藤英明など出演)が放送され、劇中の会話に伊勢方言が使われた(モデルは三重県多気町に実在)。

 また三重県観光大使の一人でもある西野カナが、2012年東京での三重県物産のアンテナショップ設立の際、インタビューで

 「三重では、めっちゃ好きやに、って言います」

と地元方言をアピールした。
 さらに「HEY×HEY×HEY」(フジテレビ)では、ダウンタウン相手のトークで

「(湯たんぽを)入れやんと寝れやんくて

と伊勢方言そのままで発言した(先方からは「自由に喋ってるな〜」とのリアクション)。
 

図4.1: 三重県の全体地図
三重県のシンボル、伊勢神宮。皇室の祖先神を祀る神社なので、天皇・皇后両陛下や首相が毎年参拝する。
志摩スペイン村(パルケ・エスパーニャ)。スペインをテーマにした娯楽施設。遊園地だけでなく、フラメンコショーなどイベントも充実。リゾート気分も相まって楽しみに事欠かない。
ミエ・ナーメ

4.

三重県ってどんな所?

南三重) 4.4 志摩と東紀州の方言 工事中

(三重の書)

@東海地方なのに関西弁?

〜方言と地理の基礎知識〜

4.1 三重県ってどんな所? 〜方言と地理の基礎知識〜@ AB

伊勢・志摩 伊賀 東紀州 街道の交差路の人とことば

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北三重) 4.2 勢州言記せいしゅうげんき 〜伊勢地方の方言〜

東海夢華録の表紙ページへ

4.1

愛知と三重の県境に近い長良川の河口堰。東海地方だが、この先はことばからして別世界。木曽三川の河口部は、広い川幅によって言語・文化の境界線となっている。

本項の題名「ミエ・ナーメ」は「三重の書」という意味である。イラン(ペルシア)の英雄叙事詩『シャー・ナーメ(王の書)』から取った。方言からこの三重県とそこの人々の地域性を語ることが目的である。

 三重県といっても、他県の人には何があるのかイメージしにくい。しかし伊勢・志摩と来れば、すぐにイメージが広がるように、伊賀上野城熊野古道鈴鹿サーキットなど観光名所は有名である。名物も伊勢エビ、アワビ、松阪牛牡蠣など「グルメの王国」と言われるほどである。
 有名人でも、古くは三井高利(三井グループの創業者、松阪市)、「俳聖」松尾芭蕉(伊賀市)、大黒屋光太夫(江戸期にロシアに漂流して帰還、鈴鹿市)がいる。近現代では、沢村栄治(プロ野球選手、伊勢市)、瀬古俊彦(マラソン選手、四日市市)がいるし、近年では野口みずき(マラソン選手、伊勢市)、浅尾美和(ビーチバレー選手、津市)といったところが有名になった。他にも吉田沙保里(レスリング選手、津市)、「オグシオ」コンビの潮田玲子(テニス選手、四日市市)などスポーツで有名人が増えてきた。
 さらに最近では西野カナ(松阪市出身)、Ms OOJA (四日市市)、Etsuco(鳥羽市)といった歌手の有名人が輩出してきた。

 さて、このような三重県ではどんなことばが話されているのか、あまり外部の人には知られていない。() 最後に挙げた3人がインタビューで所々三重県のことばの特徴を見せており(主としてイントネーション)、徐々に知られるようになったものの、全体として具体的なイメージの周知はまだまだだと思われる

4.3 伊賀の方言 工事中

〜展望 三重県の方言〜