〜伊勢方言のイメージ〜
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方言名称 | @三重弁(三重県の方言)? A伊勢弁? B地元のことば(桑名弁、四日市弁など) |
七里の渡しの展望台(桑名市)。熱田(尾張国)から海路を渡ってきた旅人の安全を監視する櫓をモチーフとする。内部は展示室になって、東海道の旅の歴史を学べる。 桑名駅前の光景。名古屋からの来訪者が最初に見る三重県の街の光景である。 三重県最大の都市・四日市市の玄関・近鉄四日市駅。 四日市駅前のアムスクエア。ホテル、ショッピングセンター、博物館が集まり、公園もあるなど市民の憩いの場となっている。 津駅前の光景。三重県の県庁所在地として近年景観整備が進んでいる。 伊勢神宮の玄関口、近鉄・宇治山田駅(伊勢市)。昭和初期のルネサンス建築として、外観、内装ともに優美で上品な意匠である。 |
ここでは伊勢方言のイメージを探っていく(方言区画に従い、「伊勢北中部方言」を指す)。 ・まず方言名称から地元民のイメージ、地元意識、方言のアイデンティティを探っていこう。 方言名称が上のように煮え切らないものになるのは、である。三重県自体、メディアで取り上げられることが少なく、東海地方以外では外部の人にその存在が意識されることが少ない。そのため、地元民が自己の方言について明確なイメージをできないのである。 @は県外に出た際によく使われるが、臨時造語的な感がある。先に述べたように、三重県は伊勢、志摩、伊賀、紀州の東部が合体したもので、かつ方言も(共通点はあるものの)それぞれ異なっている。したがって「三重」の名称で一まとめするのはあまり正確ではない。なおかつ地元民が県としてのまとまりをあまり意識していないということもある(もっとも県外に出て、ゆるやかな連帯を感じることはある)。 それではAのように旧国で方言を呼ぶのが正しいかと言うと、これも少し問題がある。学術的には、旧国で方言は一まとまりを見せていることは定説なので何の問題もないし、地元民も旧国内部の方言の共通性を分かっている人は「伊勢弁」など呼ぶこともある。 しかし歴史の項で述べたように、伊勢の内部では、「桑名」「四日市」「鈴鹿」「津」「松阪」といった具合に 。つまり小規模な生活圏のまとまりが強いということである。特に北部と南部の違いはある。ちなみに私の妻は松阪出身だが、言い回しはほぼ共通しているものの、単語がお互い違ったりして驚くことがある。 このような理由で ということが言える。付け加えるなら、「伊勢市」があるので、それ以外の地域でその名を被せることに抵抗があるということもある。 結局Bが一番自然かもしれない。 ここまでの結論に関連して、「伊勢地方(三重県全域でも)はまとまりがない」というマイナス評価を持つ人が多いかもしれない。しかし逆に考えれば、「伊勢地方は各市町村がそれぞれ個性を保持し、活力を持って競争している」というプラス評価も可能である。このことは方言だけでなく、地域全体への未来像にも関わってくると思われる。 |
・次に同系の関西弁に対する意識を見よう。 確かに大部分は共通しているし、他地方の人(近畿地方以外の人)には違いは分からない。しかし地元民の意識はというものである。確かに、関西弁と近いということはかなりの人が知っているが、細かな違いが気になるし、地元のことばの独自性を主張したいということはある。 |
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・次に名古屋弁に対する意識を見る。名古屋弁といっても、独自色の強い従来の「純粋・名古屋弁」とかなり東京語の影響を受けた「新・名古屋弁」があるが、いずれにせよ伊勢地方の人は と考えている(その具体例については 0.はじめにを参照)。 『地域語のダイナミズム』の調査によれば、三重県の人は全体的に名古屋弁への好感度が低いという結果が示されいる。この「名古屋弁」は前者を指していると思われるが、後者もあまり伊勢方言に影響を与えていない。桑名、四日市など北伊勢の人は名古屋に通勤する人が多いが、それでも地元方言に名古屋弁の影響はほとんど見られない。その要因として、この地域の人の名古屋弁への意識(さらには地元方言の愛着)があると考えられる。 |
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・最後に共通語(東京語)への意識を見ると、『三重県のことば』や私自身の調査から ということになる。そもそも県外への進学・就職する人の大半は名古屋や関西に向かう。東京への心理的距離は相対的に遠い。 この地方で地元民同士での会話を聞けば、ということが分かる。
しかし関西ほど強烈に東京語への対抗意識が無いので、場合によっては(県外に出る時など)共通語らしく話すことはある。 また桑名、四日市などは移住者が増えたせいか、東京語話者がいくらか増加した感がある。特に若い女性で県内の友人同士にも関わらず、東京語的な話し方する人が増えた。これは「共通語主流社会」となった名古屋の影響と思われる。また方言自体も東京語の影響で変化にさらされてもいる。 |
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・付け足しだが、上に関連してことばの使い分け行動も少し考察する。 地域によって若干違うかもしれないが、地元の友人同士では方言を使う人が主流である。しかし東京や名古屋など 私は純粋使い分け派(地元では方言、県外では共通語)だが、名古屋などでも方言で通す人はいる。 同系の方言が話される関西ではどうかと言うと、やや方言を保ちつつ関西弁に近づけて話すらしい。 私の母親は地元では完全に方言専用だが、名古屋の友人と話す時は方言と東京語が混じった話し方をしている。このように伊勢地方の人のことばの使い分けには個人差が大きいことが明らかである。 さらに伊勢方言は、単語や言い回しのみならず、アクセントでも共通語との違いが大きいので、 である。伊勢方言の話者にとって、共通語を話すには大きく言語形式を切り替えねばならないのであり、かなり心理的労力を必要とすることも注意されてよい。 |
インフォーマント | 四日市市出身30代男性、 大学以降は愛知県へ |