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三遠南信交流の夢

〜交通の十字路 東三河の地理〜

豊橋駅前の光景。東西南北の交通路が交差し、今も着実な発展を続けている。
二川宿資料館(豊橋市)。東海道の代表的な宿場。
東三河の主要河川・豊川(豊橋市で)。この川が信州(長野県)との間をつないでいた。
図5.5: 三遠南信トライアングル地域

ここでは東三河の地理をテーマとする。 キーワードは

   三遠南信

である。これについてまず解説しよう。これは

三河(愛知県東部、豊橋中心)
遠州(=遠江、静岡県西部、浜松中心)
南信州(長野県南部、飯田中心)

の頭文字であるこの愛知、静岡、長野にまたがる三地域の相互交流を図る動きがこの20年ほどの間にさかんになっている。この三地域を直線で結べばちょうど三角形になるので、この地域交流を称して「三遠南信トライアングル」という。

 歴史的にもこの三地域の交流は非常に盛んであった。三河と遠州は東海道で結ばれており、東西交流は新幹線、高速道によって現在も盛んに行われているのは言うまでもない。

 しかしそれに劣らず、南北交流も盛んだったのである。東三河には豊川が流れ、遠州には天竜川が流れて信州までつながっている(5.1(1)の図5.2参照)。

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 これに沿って両国と信州との間にはいくつもの街道がつながり、さかんな交流が行われていたのである。信州からは木材が運ばれ、沿岸の両国からは塩や海産物が運ばれる「塩の道」だった。またこの南北の道は伊勢参りの街道としても機能していた。伊勢参りと言えばすぐ東海道」が連想されるが、三遠南信地域の人々は渥美半島を経由する海上ルートを利用していた。当然、経済的にも海上交流がさかんに行われた。
(豊橋市の二川宿資料館の再現ビデオでその辺りの事情を述べていた、ちなみに旅人役として 石橋連司がどういうわけか出演(笑))

 このように三遠南信は東西、南北のさかんな交流が行われた地域
としてまとめられる。

 しかし近代以降になると、この地域は各県の枠に押し込まれ、それぞれ辺境として扱われることになった。三河と遠州に関しては新幹線も高速道も通り、それなりに工業集積があるものの、大都市間の「通過地」となったことは間違いない。南北交流に関しては、豊橋―飯田間を「飯田線」が通っているが、重要度が著しく低下したことは間違いない。

 このような中で、歴史的な地域交流を復活させ、地域活性化を目指す試みが生まれた。これが「三遠南信地域交流ネットワーク会議」である。これは、1985年から中部経済連合会で三遠南信交流を推進する地域フォーラムが構想されたのがきっかけとなり、1996年に設立された。この会議の設立で、自治体と経済界を巻き込んだ活動が本格化した。
 この三遠南信地域交流には
県など従来の枠組みを超える地域協力という意味合いがあった。域内の人口は230万人で、工業出荷額は13兆円(2006年)という、平均以上の県の規模を持つこの地域が活性化するのは大きな影響がある。
 
 この地域交流が排他的な地域ブロックを目指しているのではないことも注目していい。まず東西日本をつなぐ東海道がある。そして南信の北には日本海側に通じる道がある三遠南信地域交流には外部に開放的な地域交流という性質を持つ斬新さがあった。それは日本の「国のかたち」そのものを変える可能性を持っている。5.3の表題

界を超えて

は、以上のような目的を込めた三遠南信交流のキャッチフレーズである。

 このような地域交流の活性化の中で、三遠南信地域を首都機能移転候補地」とする動きもあり、自治体、経済界を巻き込んで具体的な計画もなされていた。。残念ながら、東海地域の移転候補地は岐阜県と愛知県にまたがる「東濃・西三河地域」に絞り込まれ、また首都機能移転構想自体が政府の財政難などで議論そのものがストップしてしまった。
 
 とは言え、このような広域の地域交流を推進する意味は大きい。現在、県レベルでも東海三県に静岡、長野を加えた中部圏形成が試みられており、また道州制で「中部州」が有力な区画案として挙がっている。それに際して三遠南信交流が果たす役割は大きくなると思われる。三遠南信自動車道も計画され、交流も一層さかんになると期待されている。とは言え、全国的にはこの動きはさほど知られておらず、インパクトが弱いままなのは残念なことである。

 この三遠南信地域は交流の深さから習俗・文化でも共通点が多いという。当然ながら、方言も共通点が多い地域ということが言える。
 HPの以下の部分では、この点を検証していく。



 ここでは、三河は「東三河」のみ、遠州は浜松を中心とする「西遠州」のみ、南信は飯田を中心とする「伊那地方南部」のみ指している。したがって西三河、東遠州(掛川市など)、伊那地方北部(伊那市、駒ヶ根市など)は入っていない。三遠南信地域交流ネットワーク会議に加盟している自治体も以上の範囲である。
 なお三遠南信地域交流ネットワーク会議の活動についてはリンク内当該HPを参照。

伊良湖岬の伊勢湾フェリー。かつての海上交通を受け継ぎ、現在も渥美半島と伊勢志摩を結んでいる。航海中の光景は波穏やかで非常に美しい。