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〜遠州弁の言い回し・単語集〜

遠州弁って、どう話すの?

「〜だよ」(〜(んだよ

・昨日、○○のコンサートに行っただよ。そしたらさ・・。
・明日はミーティングがあるだよ。だもんで行けん。
・ここに置いとくと、色が変わってくるだよ。気をつけてね。

 ほとんど共通語
東京語と同じように見えるが、「が無い動詞+「〜だよは遠州弁独特である。遠州弁では断定助詞が「〜」なので当然「〜だよ」を使う。もともと遠州弁では準体助詞「〜)」(「〜なのだ」が例)を省略して動詞に直接「〜が接続するところから来ているらしい(例) 行くんだ → 行くだ)。
 この「〜
だよの用法は
自分の主張を一方的に言う場合に使う名古屋弁や三河弁の「〜(んだわと同様の用法である(なお、遠州では「〜だわは使わない、この面で三河弁と違いがある)。

私は浜松駅で若い女性がこのように言うのを聞いたのだが、「が無いだけでこうも独特に聞こえるのかと衝撃的だった。
 私と同郷で、浜松に赴任した後輩も同じように衝撃を受けたと言っていた。

「〜(」(〜(        〔〜だに、 〜

・今雨が降ってるで、運動会は中止だに
・締め切りは来週だに。どうするの?
・もう行く。早くしないと間に合わんじゃん。
・そういうこと言わん方がいい
・探してた物、そこに置いてある

遠州弁ではもう一つ(〜だよ)の意味を持つ表現がこれだ。上の「〜だよと違って相手に言い聞かせるというニュアンスがある。愛知県でも東三河などで使われるが、遠州弁のシンボルと言われているように、遠州では使用頻度が高い。もっとも若い世代ではやや使われにくくなって、「〜だよ」に置き換えられつつあるらしい。

ポケットビスケッツテル(ウッチャンナンチャンの内村光良)が「〜だに」を口癖としていたので有名になったが、遠州弁とは使い方がズレていたようである。
 最近では『妖怪ウォッチ』のUSAピョンの語尾として「〜だに」が使われているが、遠州弁の使い方とはやはりずれている。

 一方、動詞or形容詞+「〜は若者でも感情をこめた時によく使うらしい。この辺りに「軽めでも独自性が出る」という遠州弁の特徴が現れているようにも思うが。

「〜(てる」(〜している

・そんなこと、皆知ってるに。常識じゃん。
・明日は時間ないって言ってたら。じゃあ明後日はどう?

共通語と同じだが、遠州から東(厳密には浜名湖より東)は動詞の進行形が「〜てる」になる(愛知県の三河弁では「〜とる」)。東日本方言の特徴なので、これは重要である。これが(居る)を「いる」と言うことにも対応している。

「〜」(〜ない

・それはちょっとできんだら。考えてみなよ。
・忙しかったで、連絡取れんかっただよ。
・道が全然分からんくてさ、すごく迷ったんだよ。
・それはしん方がいいよ。危ないで。

東日本方言の特徴が濃い遠州弁だが、動詞の否定形は西日本式に「〜」となる。活用形も上に挙げたように多彩で、若者もナチュラルに使っている。もっとも東部ではやや共通語式に「〜ないが使われることが増えたようだ。また「いない」→「いんというのが伝統的だが、現在では共通語化したらしい。
 なお、「しない」→「しん」ということが多い。名古屋など愛知県でも使われるが、グロットグラム調査によると若者の新方言らしい

「〜だら」(〜だろうでしょうだよね :推量、同意確認)

・試験は来週だら。どう対策とる?
・できんこともないだろうけど、ちょっと無理だら
・そのことは知ってるだら
・まだ時間あるじゃん。やる気出せば絶対できるだら

若者も男女ともに使う遠州弁のシンボル体言(名詞)と用言(動詞、形容詞)のどちらにも接続する用言に接続する時は(〜(んでしょう)の意味になり、強調するニュアンスがある。後述する「〜よりは語調が強い使い分けの理由はその前身である「〜ずらの語源にあると思われるが(東三河弁の項で考察)、ここでは触れない。もっとも遠州弁でも使う「〜じゃんよりは確実度は低い
 
 ところで2番目の例文にあるように、共通語の(〜だろうが全て「〜だらになるわけではない文中の「〜だろう」(叙述=客観的事実を述べる)はかつては動詞の未然形”」で言ってたが(「なからーす」「行かーす」のように)、現在は「〜だろう」になっている。
 文末の(〜だろう)(陳述=相手に向かって話しかける)は遠州弁では「〜だら」となる。このような使い分けは語源である古典文語の用法を受け継いでいるようで興味深い。

浜松中心街の街並み。浜松駅にて。
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遠州弁の若者ことばの言い回し・語法について主に紹介する。インフォーマントの情報に従い、西部浜松など)東部掛川など)が対象である。両地域で異なる点もあるが、まず共通のものを紹介し付属的に東部のみで見られる語法を紹介する。紙幅の都合で俚言(方言単語)はほとんど取り上げない。それについては他のHPを参照していただきたい。

浜名湖パルパル。静岡県で有数の遊園地として著名。浜名湖を望むロープウェイはポイントが高い。
紀伊国屋(湖西市)。新居関にあった有名な宿屋。江戸期の宿場の様子を再現している。

いかん」(ダメ     〔中〕

・こういう時はやらんといかんだら。
・それはやっちゃ(かんわ。普通考えたら、怒るに決まってるじゃん。

動詞の否定形が「〜」であることに関係してか、ダメ→いかん」となる。若者にもさかんに使われる。もっとも共通語形の「ダメも併用されている。また「かん」のように、「かんにアクセントが来るので、「かんとも発音される

楽器博物館(浜松市)。アクトシティの中心的施設で、古今東西の多種の楽器を展示、演奏体験もできる。もちろんコンサートホールも併設。
天竜川の渡し船。かつては遠州の南北を貫き、信州までつながる主要な交通手段だった。今は山間を抜ける急流下りがアウトドア気分を感じさせて人気である。