「〜」(〜よねだろうでしょう: 推量、同意確認)

・あそこで車が止まってた。誰が来てたの?
・この前とちょっと変わってた。だもんでビックリした。
・あそこにビルが見える。そこを右に曲がるだよ。
・だら!普通そんなこと、言わん

「〜だらと同じく推量と同意確認の助動詞で遠州弁のシンボル的存在若者もさかんに使う。「〜」があるので、遠州の若者は「〜よね」を使うことによる東京語化を回避している。余談だが、女の子が使うと非常に可愛らしくて良い(笑)。
 接続は「〜だら」とは異なり、用言動詞、形容詞にのみつながる語源が古典文語の推量助動詞「〜らむ」であることが関係していると思われる。これは東三河弁と同様である。
 (〜よね)の意味があるように、同意確認では一番語調が弱い相手を気遣うニュアンスが濃い。「〜だら「〜を併用し、使い分けるのは東三河弁と共通していて興味深い(東三河弁のしとるらと遠州弁のしてるらの違いも興味深い)。
 なお同意確認の3つの助動詞を確実度が高い順に並べると、以下のようになる。

   「〜じゃん」 > 「〜だら」 > 「〜

2004年の浜名湖花博で「ERA(イーラ)」というパビリオンがあった。遠州弁の「いいら(いいよね)」がモチーフなのは言うまでもない。

「〜、 もんで」(〜(から: 理由)

・あたしがやっとく、帰っていいよ。
・明日は仕事だで、早起きしないといかん。
・バイトだったもんで、行けんかっただよ。
・あんた、さぼってただらー!だもんで今焦ることになるだよ。

理由の接続詞「〜もんでは東海地方の広い範囲で使われるが、静岡県では遠州だけである。「だで〜」「だもんで〜」を使う時、名古屋弁などともそっくりに聞こえる。あまり方言と思われていないかもしれないが、若者の間でもかなり使われている (最近は「〜から」が使われることも多いようだ)。

「〜じゃんね(〜だよねだよ

・そうじゃんね。普通そう思うら。
・あたし、今日はバイトあるじゃんね。だから行けんわ。
・今、『○○』っていう映画やってるじゃんね。すごい見に行きたい。

同意確認「〜じゃんの派生表現なので、本来は最初の例文のように相手への同意確認の表現である。しかし若者の遠州弁では2番目の例文のように、一方的に自分の状況を述べる場合(叙述)にも使われる。これは(〜だよ)の意味になる。もともと「〜じゃんは確実度が高い推量の意味だし、「〜を付ければ断定の語調を柔らげる効果があるので、使われるのだろうか。しかし3番目の例文などどちらの意味にも取れるし、相手が「そんなこと、知らねーよ」と思っている場合もあり、誤解を受けやすい。
 なお、他のところでも述べたが、名古屋や三河など愛知県でも全域的に使われている

バカ、 〜」(とてもすごく〜:強調)

・あそこの店の物、安いに。すぐ買いに行こう。
・何か、難しいこと言ってたら。よく分からんかったね。
・あの辺、工事してるで、バカうるさいら。
・あのタレント、バカ格好いいら。すごいファンになったわ。。

形容詞の強調表現。東京語の「〜」、関西弁の「むっちゃ〜」に当る。語調的には〜」<「バカ〜」。「〜」は東三河弁でも使うし、東京語にも類似の表現があるが、「バカ〜」は他地域の人にビックリされる。どちらもポジティブな強調にも使う。
 もっともこれらは強い表現なので通常はすごい〜」が使われるようだ。

長澤まさみ(磐田市出身)が地元のショッピングセンターのラジオCMで次のように言ったらしい。

安いに〜!
夕闇の浜松アクトタワー
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浜名湖を行く遊覧船からの光景。まさに海と見まがう風景である。

「〜(ない)」(〜しなさい:命令)

・そこの席に座りな座りない
・早く食べな食べない。学校に遅れるに。
・まあ飲みな飲みない。年末だで、何も気にしんでいいよ。

柔らかい命令形。インフォーマント2人は「〜」を使うと言ったが、「〜ない」と言う人もいるという情報もあった。おそらく個人差があるのだろう。「〜ない」は否定の意味で誤解されやすいが。
 あまり方言らしく思えないが、敬語表現の「〜(なさるの命令形から来ているようだ。三河弁では「〜(」と言うので、この面で両者の違いがはっきりしている湖西市では「〜(」を使う)。
 命令形ではほかに三河弁と共通する
「〜(っせ」というのもあったらしいが(例) 「座らっせ」「飲まっせ」)、現在使う人はほとんどない。

「〜まい)」(〜しようよ: 勧誘)          〔稀〕

・冷める前に早く食べまい。すごい美味しいに。
・道に迷うといかんで、一緒に行かまい
・浜松祭りで言うみたいに、頑張ってやらまいか

浜松祭りのキャッチフレーズやらまいか!」で有名だが、本来の「〜まい)」は気軽な勧誘表現である。愛知、岐阜など東海地方の広い範囲で使われ遠州西部がその東限である(東部では行かざー」のように「〜ざー」を使うらしい)。
 遠州弁では、「動詞の未然形まい」のように接続する(例) 食べまい行かまい)。この接続形は、愛知県の東三河弁と連続する。
 ところで共通語では動詞の勧誘形と意思形(「〜(し)ようと思う」のように)とは同じ形だが(行こう、やろう)、伝統的な遠州弁では以下のように区別されている(意思形で東三河弁と異なっていることが分かる、 5.3参照)。

勧誘形 意思形
食べよう 食べまい 食べす
行こう 行かまい 行かす

 しかし「〜まい」も意思形の「〜も若い世代では共通語化で消滅したらしい。 結局「やらまいか」は祭りのキャッチフレーズでのみ残っているわけである。

浜松中心街。老舗デパートの松菱ZAZAシティなど商業施設が立地する。ゴールデンウィークなので、浜松祭りのみこしが見える。
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ジュビロ磐田の本拠地、ヤマハスタジアムの外観。
ホームゲームでのジュビロ磐田。「地域密着」らしく、ホームでは遠州弁も聞こえる。
天竜二俣駅。レトロな駅舎が旅情を感じさせる。天竜下り船乗り場へのシャトルバスもある。