◎「〜ら」(〜よね、だろう、でしょう: 推量、同意確認)
・あそこで車が止まってたら。誰が来てたの?
・この前とちょっと変わってたら。だもんでビックリした。
・あそこにビルが見えるら。そこを右に曲がるだよ。
・だら!普通そんなこと、言わんら。
「〜だら」と同じく推量と同意確認の助動詞で、遠州弁のシンボル的存在。若者もさかんに使う。「〜ら」があるので、遠州の若者は「〜よね」を使うことによる東京語化を回避している。余談だが、女の子が使うと非常に可愛らしくて良い(笑)。
接続は「〜だら」とは異なり、用言(動詞、形容詞)にのみつながる。語源が古典文語の推量助動詞「〜らむ」であることが関係していると思われる。これは東三河弁と同様である。
(〜よね)の意味があるように、同意確認では一番語調が弱い。相手を気遣うニュアンスが濃い。「〜だら」と「〜ら」を併用し、使い分けるのは東三河弁と共通していて興味深い(東三河弁の「しとるら」と遠州弁の「してるら」の違いも興味深い)。
なお同意確認の3つの助動詞を確実度が高い順に並べると、以下のようになる。
「〜じゃん」 > 「〜だら」 > 「〜ら」
2004年の浜名湖花博で「ERA(イーラ)」というパビリオンがあった。遠州弁の「いいら(いいよね)」がモチーフなのは言うまでもない。 |
「〜で、 もんで」(〜(だ)から: 理由)
・あたしがやっとくで、帰っていいよ。
・明日は仕事だで、早起きしないといかん。
・バイトだったもんで、行けんかっただよ。
・あんた、さぼってただらー!だもんで今焦ることになるだよ。
理由の接続詞「〜で、もんで」は東海地方の広い範囲で使われるが、静岡県では遠州だけである。「だで〜」「だもんで〜」を使う時、名古屋弁などともそっくりに聞こえる。あまり方言と思われていないかもしれないが、若者の間でもかなり使われている (最近は「〜から」が使われることも多いようだ)。
「〜じゃんね」(〜だよね、だよ)
・そうじゃんね。普通そう思うら。
・あたし、今日はバイトあるじゃんね。だから行けんわ。
・今、『○○』っていう映画やってるじゃんね。すごい見に行きたい。
同意確認「〜じゃん」の派生表現なので、本来は最初の例文のように相手への同意確認の表現である。しかし若者の遠州弁では2番目の例文のように、一方的に自分の状況を述べる場合(叙述)にも使われる。これは(〜だよ)の意味になる。もともと「〜じゃん」は確実度が高い推量の意味だし、「〜ね」を付ければ断定の語調を柔らげる効果があるので、使われるのだろうか。しかし3番目の例文などどちらの意味にも取れるし、相手が「そんなこと、知らねーよ」と思っている場合もあり、誤解を受けやすい。
なお、他のところでも述べたが、名古屋や三河など愛知県でも全域的に使われている。
「バカ、 ど〜」(とても、すごく〜:強調)
・あそこの店の物、ど安いに。すぐ買いに行こう。
・何か、ど難しいこと言ってたら。よく分からんかったね。
・あの辺、工事してるで、バカうるさいら。
・あのタレント、バカ格好いいら。すごいファンになったわ。。
形容詞の強調表現。東京語の「
超〜」、関西弁の「
むっちゃ〜」に当る。
語調的には「
ど〜」<「
バカ〜」。「
ど〜」
は東三河弁でも使うし、東京語にも類似の表現があるが、「
バカ〜」は他地域の人にビックリされる。どちらもポジティブな強調にも使う。
もっとも
これらは強い表現なので、
通常は「
すごい〜」が使われるようだ。
長澤まさみ(磐田市出身)が地元のショッピングセンターのラジオCMで次のように言ったらしい。
「ど安いに〜!」 |
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夕闇の浜松アクトタワー。 |
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浜名湖を行く遊覧船からの光景。まさに海と見まがう風景である。 |
「〜(し)な/ない)」(〜しなさい:命令)
・そこの席に座りな/座りない。
・早く食べな/食べない。学校に遅れるに。
・まあ飲みな/飲みない。年末だで、何も気にしんでいいよ。
柔らかい命令形。インフォーマント2人は「〜な」を使うと言ったが、「〜ない」と言う人もいるという情報もあった。おそらく個人差があるのだろう。「〜ない」は否定の意味で誤解されやすいが。
あまり方言らしく思えないが、敬語表現の「〜(し)なさる」の命令形から来ているようだ。三河弁では「〜(り)ん」と言うので、この面で両者の違いがはっきりしている(湖西市では「〜(り)ん」を使う)。
命令形ではほかに三河弁と共通する「〜(ら)っせ」というのもあったらしいが(例) 「座らっせ」「飲まっせ」)、現在使う人はほとんどない。
「〜まい(か)」(〜しようよ: 勧誘) 〔稀〕
・冷める前に早く食べまい。すごい美味しいに。
・道に迷うといかんで、一緒に行かまい。
・浜松祭りで言うみたいに、頑張ってやらまいか!
浜松祭りのキャッチフレーズ「やらまいか!」で有名だが、本来の「〜まい(か)」は気軽な勧誘表現である。愛知、岐阜など東海地方の広い範囲で使われ、遠州西部がその東限である(東部では「行かざー」のように「〜ざー」を使うらしい)。
遠州弁では、「動詞の未然形+まい」のように接続する(例) 食べまい、行かまい)。この接続形は、愛知県の東三河弁と連続する。
ところで共通語では動詞の勧誘形と意思形(「〜(し)ようと思う」のように)とは同じ形だが(行こう、やろう)、伝統的な遠州弁では以下のように区別されている(意思形で東三河弁と異なっていることが分かる、 5.3参照)。
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勧誘形 |
意思形 |
食べよう |
食べまい |
食べす |
行こう |
行かまい |
行かす |
しかし「〜まい」も意思形の「〜す」も若い世代では共通語化で消滅したらしい。 結局「やらまいか」は祭りのキャッチフレーズでのみ残っているわけである。
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浜松中心街。老舗デパートの松菱やZAZAシティなど商業施設が立地する。ゴールデンウィークなので、浜松祭りのみこしが見える。 |
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ジュビロ磐田の本拠地、ヤマハスタジアムの外観。 |
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ホームゲームでのジュビロ磐田。「地域密着」らしく、ホームでは遠州弁も聞こえる。 |
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天竜二俣駅。レトロな駅舎が旅情を感じさせる。天竜下り船乗り場へのシャトルバスもある。 |