遠州についてはヤマハ、ホンダ、スズキなどが起業したことと関連して、

「やらまいかの地」

と言われる。「やらまいか」＝「やろうよ」という誘い文句の遠州弁である。これは「積極的、進取の気風ある遠州」をシンボリックに表すキャッチフレーズで、１９８０年代以降さかんに使われるようになったという。遠州は冬場に強風が吹くためか、住民気質は負けず嫌いなところがあるという。それが前述したように、有名メーカーの起業につながった。このように遠州は、一般的な静岡イメージとは異なる、独自性の強い気質を持つ地であることが分かる。
　前述の企業のうち、ホンダの創立者である本田宗一郎、スズキの鈴木道雄は遠州の出身である。

　芸能界では数少ないが、知名度抜群な有名人として長澤まさみがいる（女優、磐田市出身）。彼女はJリーグのジュビロ磐田の初代監督の娘であり、折に触れて故郷の話を語ることもある。さらに最近では、ももいろクローバーZの百田夏菜子（浜松市出身）が担当のラジオ番組で遠州弁を披露し、地元でのライブトークでも遠州弁で話したという（ラジオで数回遠州弁講座を行い、Ｙｏｕｔｕｂｅでも視聴できる）。

　ところで「やらまいか」のように、誘いの助動詞「～まい（か）」を使うのは愛知県の東三河とも共通する（もっとも愛知、岐阜など中部の広い地域で使用される）。確かに両地域は交流も文化的つながりも深い。そして「三遠南信」という地域名から漠然と「これらの地域の方言は全て同じ」と考えてしまう。しかし実態を詳しく見るとそうでもない。

　以下では、愛知県東部の東三河の方言と比較し、「どこが共通で、どこが違うか」という観点で解説していく。

「遠州」は「遠江（とおとうみ）国」の別称であり、静岡県の西部を指す。外から見れば、静岡県は一つのイメージで、内部の違いなど想像がつかない。しかし静岡県は次の旧３国が合体したものであり、歴史的背景から現在でも異なる気質が保たれている。

遠江国（遠州）	西部。　浜松や掛川など。県内で最も工業集積が高い地域。ヤマハやホンダ、スズキなど全国区の企業も抱える。
駿河国	中部。　県都・静岡市を中心に、富士市や沼津など。世間一般のイメージする「静岡」はここ。温暖な気候のせいか、「穏やかな気質の地」と言われる。
伊豆国	東部。　三島市や下田、熱海など。　歴史的に関東と深い関係を持ち、現在でも東京との関係が深い。しかし半島ゆえの独自性も持つ。首都圏のリゾート地として有名。