岐阜駅から伸びる岐阜市のメイン・ストリート。アーケード街が続く。再開発によって活気を取り戻す試みが続いている。。 |
左) 「”卯建(うだつ)”の上がる町」美濃市。西美濃東部(中濃)のこの町は和紙(美濃紙)の生産で知られ、古い町屋が残りっている。「美濃にわか」など伝統芸能や四季の祭りが街を彩る。 右) 美濃市を流れる長良川。 この水運が街に繁栄をもたらした。 |
方言名称 | |
上の名称は当然のように思えるが、「岐阜弁」の範囲が問題(!)なのである。ネイティブのインフォーマントから聞いたように消去法的に岐阜弁の範囲を特定していこう(下表を参照)。 |
地名 | Q.ここのことばを 「岐阜弁」と思うか? |
羽島 | |
各務原 | |
関 | |
美濃市 | |
大垣 | |
東美濃(多治見など) | |
北美濃(郡上 など) |
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飛騨 地方 |
表で見たように、まず飛騨地方、郡上など北美濃、東美濃などの地方が「岐阜弁」の範囲から除かれた。
とすれば大雑把に言うと、残っている範囲、つまり普通「西美濃地方」(「中濃」も含む)など呼ばれるの範囲ということになる。
とは言え、多くの場合、というニュアンスが強いようだ。決して岐阜県全部のことばではない。
ただし、大垣については、「分からない」という答えであった。大垣と岐阜市はJRの列車でせいぜい10分ほどの距離しかない。大きく見れば、同じ「西美濃」の隣同士の街である。なのに「「大垣のことば」が「岐阜弁」に入るのか、分からない」とはどういうことだろうか?
これについては後述してある(3.2(4.3)を参照)。
かつては「美濃弁」「美濃ことば」という呼び名も使われたかもしれないが、現在ではあまり使わないようだ。たぶん日常生活で「美濃地方」というまとまりはあまり意識されないからだと思う(テレビなどの天気予報では「美濃地方」とことばも時々使われる)。意識されるとしたら、「西美濃地方」「東美濃地方」などもっと細かなまとまりの方だろう。
岐阜県は全体的に「輪中根性」と言われるほど、細かな地域ごとのまとまりが強く、地域間の対抗意識が強い、と言われている。こうしたことがこの方言名称のあり方に影響しているのかもしれない。このあたり、非常に興味深いところである
なお岐阜市の人はという意識を持ち、かつ実際に使用しているが(※)、という使い分け行動を行っている。実際非常に流暢に共通語を話し、名乗り出ない限り「岐阜の人」とは分からない。既に述べたように岐阜県方言は「東京式アクセント」なので、共通語を話すことに摩擦や抵抗感がほとんど無いようだ。
ただ断定の語尾が「〜や」なので、関西へ行っても関西弁(らしき言葉)を比較的容易に話せるという。
最後に外から見た(聞いた感じの)岐阜弁のイメージを説明する。これについては2つの見方に別れよう。
まず名古屋弁は共通語化が進んだ一方、岐阜弁は断定文末詞の「〜や」などで関西弁のように聞こえることから(アクセントが異なるが、関西以外の一般人には区別しづらい)
という見方が一つ。
もう一つはという見方も根強くある。
このように名古屋弁と岐阜弁は共通点が多いものの、目立つ差があることから違いも感じられるものである。この辺りに両者の複雑な関係が見て取れる。
※ 朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社、2010年)は著者が岐阜県不破郡出身であり、登場人物のセリフはほぼ岐阜弁である(2012年に神木隆之介主演の映画版では共通語だった)。