A「〜やろ」と「〜よね」の使い分け
インフォーマントによれば「どちらも使うが、”〜やろキツイ語調なので、親しい友達同士で使う」とのことだった。私が実際大垣で調べた印象では「岐阜市に比べて、大垣の方が”〜やろ”を多く使う」という感じだった。岐阜市の場合、人口が増加して広域社会となったため、「〜よね」など東京語的言い回しを使うようになったという推測が可能である。付け加えれば、念押しの言い回しには他に岐阜市と同様に「〜やんね」も使う。



まとめ
以上、まとめれば岐阜市方言岐阜弁)と大垣方言の違いは本質的に差は無しだが、都市化の度合いによって微妙な差が発生と言えよう。本稿はもっぱら言い回しにのみ焦点を当てており、単語については扱っていない。おそらく単語については岐阜市と大垣で違いが多いと思われるが、紙幅の都合で明らかに出来ない。他地域との比較から、「言い回し文法については広い地域で均質化する」という傾向があることは指摘できよう。
 本稿の調査では充分とは言えないが、意識面のみならず実態面使用状況についても両者の微妙な差を示すことができたと思う。

大垣城から望む関ヶ原方面。伊吹山の雄姿が望める。この山の向こうが関西である。
大垣城天守と大垣藩祖・戸田氏鉄の像。現在の天守は戦後に再建されたもの。戦前の天守閣は「国宝」だったが、惜しくも戦災で焼失した。

ここではいよいよ大垣方言の実態に迫る。実態調査には、岐阜市方言との言い回しにおける比較によって、インフォーマントに調査した。予想されたことだが、岐阜弁とほとんど同じという結果が得られた。距離的にきわめて近いので、当然といえば当然の結果ではある。ただし調査から微妙な違いも浮かび上がった。私が実際に岐阜市と大垣で調査した感じでは、言い回しの点で岐阜弁の方が東京弁寄りという傾向が見られた。そのポイントは下(↓)の2点である。
 なお岐阜市の方言(岐阜弁)については
3.2(3)「岐阜弁」って、どんな風にしゃべるの?  を参照のこと。

大垣市の街並み。工業都市、情報産業都市として発達したが、「水の都」の面影を多く残している。夏には「水まんじゅう」が街の人々をうるおす。

(4.3)

大垣の人は地元をどう思ってる?

(〜だよ)は「〜やよ、やて、やわ」
「〜やよやてやって)」は大垣でも使われており、岐阜市のそれと用法においても差異はない。ただ注目すべきは「〜やわ大垣では使用していることである。意味において前二者と違いはない。使用例は以下の通り。

・仕事終わってから、急いで来たんやわ
・やで、あかんって言っとるんやわ

「〜やわ」は岐阜市の場合、中年以上で使用が確認されているが、若者では全く使われていないという。それが大垣では若者でも使うという答えが得られた。私が大垣に行った際にもかなり聞こえた。「〜やわ」は語感的に関西弁的な感じがするが、在来方言の特徴を受け継いでいると言える。

図表3.5 :「あなたの話していることばは○○と似ていると思いますか?」に対する大垣市民の回答  
 (単位:%)

〜 大垣人の自己認識 〜

地域名 とても似ている 少し似ている あまり似ていない 全く似ていない わからない 知らない
岐阜 15 31 14 26 13
名古屋 29 38 12 14
関西 26 30 30
東北 13 60 14 12
九州 11 60 14 13
方言名称 大垣のことば、 岐阜県の方言

観光写真に多く使われる住吉灯台の情景。この近くに松尾芭蕉の銅像が建っている。大垣は「奥の細道終焉の地である。
インフォーマントに「地元のことばをどう呼ぶのが自然か?」と質問したところ、上の回答が得られた。先行研究も参照したが、大垣方言に固定的な呼び名は付いていないらしい。インフォーマントによれば、「”大垣弁”という呼称も不自然」とのことだった(前記『言語』誌の調査では「美濃ことば」という呼称だったが、これには納得できないとの答えだった)。
 
 次に「岐阜弁と呼んで、納得するか?」と聞いたところ、これについても否定的な答えだった。「岐阜弁」という呼称には「岐阜市の方言というニュアンスが非常に強い。「岐阜市と生活圏が異なる」という認識の 大垣人にとって「岐阜弁」とは抵抗感が強い呼称なようだ。
 もっとも「具体的にどう違うか?」という質問には「あまり違いはないかも」とのことだった。ここから岐阜市との違いを強調するのは、 イメージ的な側面が大きいということがうかがえる。
 下に先行研究のアンケート調査を引用したが、「少し似ている」「あまり似ていない」「全く似ていない」を合わせて「岐阜弁との一体性を否定する見解は50%以上に達している。この調査も「大垣人の岐阜弁に対する微妙な距離感」を裏付けていると言えよう。

 なお「関西」と比較した項があるが、「わからない」「知らない」の回答が「名古屋」に比べて少ないのが注目される。「名古屋弁に比べて、関西弁に具体的なイメージを持っている」ということである。先行研究では「関西のことばと接する機会が多いからでは」と推測しているが、関西に近い大垣の特性を考えればうなづける推測である(テレビの関西系芸能人のことばに触れているから、とも考えられるが)。「全く〜」「少し〜」合わせて「似ていない」の回答が60%に達する一方で、「似ている」が30%以上であるという結果から、関西弁に対する微妙な距離感と親近感がうかがえると思うが。

緑に囲まれた大垣駅前の光景。地元企業にして全国区の大垣共立銀行のオフィスも見える。

出典:『岐阜県のことば』(明治書院)、久野眞の調査による

3.2(4)の先頭へ戻る
インフォーマント 大垣市出身、20代男性
大学時代のみ名古屋に通学、それ以外は大垣在住   (調査年次:2006年

(4.4)

〜大垣ことばの実態〜

実際、大垣のことばって?