・おむつ濡れとるで、替えたりゃー ・40年も昔のことやがね。 ・そったらもん、触ったこともないがね。 ・そんなおそぎゃー(恐ろしい)こと、よーせん。 ・ちょっと遊びに行ってくるで、えか。 ・いつ帰ってりゃーすの? (表記は一部改めた) |
目次 (1)「岐阜弁」4つのPoint
。それはである。言うまでもなく「だ」は東日本式で、「や」は西日本式の語尾である。名古屋が「〜だわ」「〜だて」というのに対し、岐阜は「〜やわ」「〜やて」と言う。既に4.1で言ったように、岐阜県はかつて日本の中心だった関西の文化、ならびに関西弁の影響を多く受けている。その中で岐阜市を中心とする西美濃はその最前線である。
岐阜市と名古屋の間には木曽川が流れ、それが県境を成している。たぶん関西の影響は木曽川の付近でせき止められたのだろう。だから名古屋は独自の文化を発展させたとも言える。筆者の印象では、という感じだった。
(余談だが2.(7)でも述べたように、愛知県側でも尾張北端の犬山や瀬戸などでは「〜やろ」という人が多い。県境付近では岐阜からの影響も及んでいるようだ。)
結論から言うと、、ということである。「うめゃあ、赤(あけ)ゃあ」など「ai → ea」となるという連母音融合(いわゆる「みゃあみゃあ」音)はまさに、名古屋弁と共通の特徴で、かつては「これ、うめゃあやろ」なんて言ってたようだ。先の逢坂氏の母の例からも明らかだ。
が、岐阜弁も発音に関しては名古屋弁と同様に共通語化した。みゃあみゃあ音は70歳以上の老人でないと言わないようだ。
ただもともとなどのみゃあみゃあ音は、共通語形の「うまい、赤い」などと共存していたようで、発音の共通語化はあまり岐阜の人にも抵抗感はなかったらしい。
付け加えるなら、みゃあみゃあ音だけでなく、「赤い→あけー」「うまい→うめー」といった「ai→e-」となる連母音融合も併用していたらしい。これの名残りは「どえらい→でーれー」といった所にあるようだ。
3.2
写真(上)長良川から岐阜城を望む。夏にはここで名物「鵜飼」が行なわれる。(下)は長良川に浮かぶ「鵜飼舟」。この辺りでマラソンの高橋尚子が高校までを過ごしたことでも有名。 |
岐阜市。人口40万を超える岐阜県の県都。写真はJR岐阜駅前の光景。再開発で景観が整備された。 |
同種のことばである名古屋弁はかなり共通語化≒東京語化している。岐阜市は名古屋と非常に近い通勤圏であるから、この影響をモロに受けているように思ってしまう。実際どうなのか。インフォーマントの情報と筆者の観察を合わせると、という感じだ。岐阜市の若者同士の会話では、例えば「〜よね」「だよね」など一部の東京語的な言い回しが混じることがあり、「岐阜弁は消えたのか」と一瞬思ってしまうが、それは全面的なものではないようだ。名古屋でもよく聞かれる「〜だよ」「〜でしょー」等については相変わらず岐阜弁形が保たれている。インフォーマントによれば、、という。
名古屋に近いのに、これはなぜだろうか?筆者の考えでは、次の2つの原因があると思う。
@名古屋人の流入がそれほど大規模ではなかった
A岐阜市は名古屋に対してある程度自立している
まず@について検討しよう。名古屋はたしかに3大都市圏の一つだが、都市圏拡大の大きさとスピードはそれほど大きくなかったようだ。これは東京圏や大阪圏と比べると歴然とするであろう。今に至っても、名古屋の人口密度は東京・大阪の半分程度しかない。名古屋自体が土地余りなのである。また周辺部でマンションや住宅地の開発は進んでも、その範囲は愛知県内の名古屋周辺の地域に留まっていたのではないだろうか。こうしたわけで、岐阜市にに共通語化した名古屋の住民が大量流入することが妨げられた、と考える。
Aの傍証として次のことが挙げられる。岐阜市の人間は、名古屋に通勤し、そこで共通語っぽく話しても、家に帰れば岐阜弁を使う言語生活を送っている、ということである。岐阜市など岐阜県の都市は、繊維など地場産業を持ち、決して名古屋の衛星都市というわけでもない。上で述べた言語生活も、「岐阜はけっして名古屋の植民地ではない」という岐阜の人の気概を表わしていると思われる。
あと、岐阜は「や」など関西式の言い回しを使っている。この特徴が、「〜だよ」「〜でしょー」「〜じゃん」などの共通語(≒東京語)の受け入れをある程度抑える「歯止め」になったのではないだろうか。名古屋はこれらの言い回しを取り入れることで、全体的に東京語との同化が進んだのは間違いない。
インフォーマント(情報提供者) | 岐阜市出身20代女性 名古屋に進学 (調査年次: 2005年) |