・発音

伝統的な発音の特徴として「 ai → aa」となる連母音融合が一般的であった。名古屋や西美濃の「みゃあみゃあ」音に対して、「あーと伸ばす発音が特徴的であった。
 参考のため、具体的な比較例を挙げよう。 


 図表3.8 : 東美濃と名古屋・西美濃 連母音融合の比較   

東美濃 名古屋 ・西美濃
赤(あか)い  あかー
  (akaa)
 あけゃあ
  (akea)
大根(だいこん)  だーこん
  (daakon)
 でゃあこん
  (deakon)
何もないから  何もなーで
 (nanmo naa de)
 何もねゃあで
  (nanmo nea de)


名古屋弁の「どえりゃあうめ」は、ここでは「どえらーうまー」だったわけである。これに関連して、「行こまい(行こう)」を  「行こまー」 と発音する例も多かったらしい。

 このような特徴は中年(50代)以上ではやや保たれているもの、若年層ではこの種の発音は完全に消滅している。(なお、このような発音癖は、かつて広島でも見られたという。)

(2)

東美濃のことばって、どんな感じ?
方言名称    東濃(とうのう)弁


セラミックパークMINO(多治見市)。「焼物王国」東美濃の魅力を伝えるテーマパーク。「岐阜県現代陶磁資料館」やメッセ施設、作陶館のほか、ショップやギャラリー、レストランなど多目的な機能を持つ。。
・方言名称は上の通りである。最初にあげた「〜やらのように、東美濃の大部分で共通の特徴が多い。一般的な認識では、
   東美濃のほぼ全域で共通の方言が話されている
と考えられている。
  ただ多治見など西部と恵那・中津川の東部で、やや異なる特徴もあり、話者も

   西部と東部は違う

という点は自覚している。

・岐阜市など西美濃で話される「岐阜弁」との違い意識について質問した。これについては 
     岐阜弁とは明らかに違う
を持っている。具体的なイメージとしては

   「違和感ある  キツイ  関西ぽい  名古屋ぽい 」 

ということであった。前にも述べたが、「岐阜市に行ったことも無い」という人も東美濃では多い。生活圏としてはお互いに没交渉なので、親近感を持ちようが無いのだろう。
 逆に「岐阜市の人間は、こっち(東美濃)のことばを信州ぽい、と 考えてるだろう」とのことである。
 
  ただ両者を全く別個のことばを捉えるのは正しくない。「〜やらは確かに耳に付くが、それ以外はおおむね岐阜弁と同じような感じである。実際聞いた感じでは「所々”〜やら”が耳に付く」というのが正確なイメージであろう。3.1で説明したようにグラデーションのように少しずつ変化している」という状況だと捉えるべきである。

・「名古屋弁と似ていると思うか」という質問には

     「やはり違う

という答えであった。東美濃の、特に西部は名古屋の通勤圏となっており(名古屋からの転入者も多い)、影響も強く受けているはずだが、ことばの上では現在でも違いが保たれており、東美濃西部でも名古屋と同様のことばが普及しているわけではないらしい(ただし、西部では、早い段階で通勤圏となったため、一部の名古屋弁の特徴を取り入れたらしい)。

  インフォーマントに「最近、名古屋の通勤圏になって、共通語化が進んでいないか?」と聞いたところ、

   「地元で共通語や名古屋のことばを話すと、浮いた感じになる。」とのことであった。
 名古屋弁化や名古屋市中心部のような共通語化は、東美濃ではあまり進んでいないようである。
 私が東美濃最大の都市であり、もっとも名古屋に近い多治見で観察したところ、そこではまだまだ地元の若者の間では方言による会話が自然なようだった(もっとも新築マンションや新興住宅の増加の結果、共通語話者が増加したり、方言色が多少薄まる傾向もあるようだ)。

・「東京や名古屋で地元の友達と会った時どんなことばで話すか」という使い分け行動の質問には
       
   「地元のことばで話す

という答えが返ってきた。 


岐阜県陶磁資料館(多治見市)。古代以来の美濃焼の歴史を伝える。千利休や古田織部に指導されて発展した桃山時代の作品の展示は充実している。

岩村(恵那市)の城下町。東美濃には山間に開けた町が多い。
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〜 東美濃の方言イメージ 〜
人道の丘モニュメント(八百津町)。ユダヤ人を救った外交官、杉原千畝氏は当地の出身で、その業績を伝える記念館と公園が開かれている。
インフォーマント 瑞浪市在住、20代男性
高校時代は多治見に通学、 大学時代は名古屋に通学   (調査年次: 2006年
木曽川(可児市兼山にて)。日本有数のこの大河は、東美濃を経由し、信州(長野県)まで続く。流域の荒々しくも優美な景観から「日本のライン河」の異名を持つ。

・方言の自己イメージ